期末テスト当日の朝。
家でも復習を重ね、電車の中でも
単語帳を開き続けていた私は、
その流れのまま教室の扉を開けた。
「綺羅ちゃんおはよう」
「梅雨ちゃんおはよー!」
声をかけてくれた梅雨ちゃんに、
自然と笑顔で返す。けれど、
その一歩先で違和感に気付いた。
(……静か)
いつもなら朝から賑やかな教室。
三奈ちゃんや上鳴くん、切島くん、
瀬呂くんの声が飛び交っているはずなのに、
今日は違う。
全員が席について、ノートやプリントに
視線を落としている。
ページをめくる音や、ペンの走る音だけが
やけに鮮明に聞こえた。
(みんな本気だ……)
胸の奥が少しだけ引き締まる。
私も席に向かおうとして、ふと前を見る。
爆豪くんは――
椅子に深く腰掛け、
ポケットに両手を入れたまま足を組んでいる。
机の上には何もなく、復習をしている様子もない。
ただ、退屈そうに前を見ているだけだった。
(凄く余裕そう……)
思わずその背中を見つめてしまう。
(爆豪くんってそつなくこなすタイプだよなぁ)
少しだけ羨ましさが胸に浮かぶ。
私は静かに席に着き、
最後の確認のためにノートを開いた。
(大丈夫……やることはやった)
そう自分に言い聞かせながら、
頭の中で要点をなぞっていく。
⸻
やがて教室の扉が開き、相澤先生が入ってきた。
その瞬間、空気が一気に張り詰める。
そして筆記試験が開始された。
問題用紙が配られ、開始の合図と同時に
一斉にペンが走り出す。
頭を抱えながら奮闘する者。
早く終わって時間を持て余す者。
いつも通り落ち着いて問題を解く者。
それぞれの様子が、視界の端でぼんやりと映る。
私はただ、目の前の問題に集中した。
(落ち着いて……)
百ちゃんに教えてもらったことを思い出す。
感覚じゃなくて、論理で。
文章の流れを追い、選択肢を一つずつ見比べる。
(これ……違う)
(こっちだ)
焦らず、一問ずつ。
教えてもらったことを、丁寧に積み重ねていく。
⸻
そして。
期末テスト筆記を終えて演習試験のお時間。
⸻
ヒーローコスチュームに着替え、
雄英敷地内のバス停に集まる。
目の前には、A組の生徒たちと
――雄英の教師たち。
「それじゃあ 演習試験を始めていく。
この試験でも 勿論赤点はある。
林間合宿行きたけりゃ
みっともねえヘマはするなよ」
相澤先生の低い声が響く。
その周りには、八人の講師。
(ロボとの戦闘って聞いてたけど、
講師の人数多いなぁ)
そんなことを考えていると、相澤先生が続ける。
「諸君なら事前に情報仕入れて何するか
薄々分かっているとは思うが…」
「入試みてぇなロボ無双だろ!!フーーーッ!!」
「花火!カレー!肝試ーーー!!」
上鳴くんと三奈ちゃんが、
いつもの調子でテンションを上げる。
ロボとの戦闘――
その情報を信じていた私たちは、
どこか安心していた。
でも――
「残念!!諸事情あって
今回から内容を変更しちゃうのさ!」
「え」
思わず声が漏れる。
相澤先生の首に巻かれた捕縛布から、
ひょっこりと顔を出したのは校長先生。
一瞬で空気が変わった。
さっきまでの明るさが、すっと消える。
「変更って…」
百ちゃんの小さな呟き。
それに応えるように、校長先生が説明を始める。
敵活性化の恐れ。
それを未然に防ぐ必要性。
そして、これからの社会における対敵戦闘の激化。
ロボではなく、人を相手にする訓練の必要性。
(対人戦闘……)
言葉の重みが、じわりと胸に落ちる。
「これからは対人戦闘・活動を見据えた
より実践に近い教えを重視するのさ!
というわけで… 諸君らにはこれから二人一組で
ここにいる教師一人と戦闘を行ってもらう!」
「先…生方と…!?」
緑谷くんが思わず声を上げる。
当然だ。
相手は、プロヒーロー。
それも教師。
「尚・ペアの組と対戦する教師は既に決定済み。
動きの傾向や 成績 親密度……諸々を踏まえて
独断で組ませてもらったから発表してくぞ。
まず轟と星宮がチームで 俺とだ」
名前を呼ばれて、私は反射的に轟くんを見る。
視線が合う。
(轟くんと……)
(相手は相澤先生)
胸の奥が、少しだけ強く鳴った。
「そして緑谷と爆豪がチーム。
で…相手はーーー…」
「私が、する!
協力して勝ちに来いよ!お二人さん!!」
オールマイトが割って入る。
その圧倒的な存在感に、空気が一気に引き締まる。
(オールマイト……)
緑谷くんと爆豪くんの組み合わせ。
そしてその相手。
誰もが息を呑む。
「次 芦戸と上鳴で 相手は校長。
八百万と麗日で13号。
口田と耳郎で 相手はプレゼント・マイク。
蛙吸と常闇で エクトプラズム。
瀬呂と峰田で ミッドナイト。
葉隠と障子で スナイプ。
切島と青山でセメントス。
飯田と尾白で パワーローダー。
それぞれステージを用意してある。
10組一斉スタートだ。
試験の概要については各々
対戦相手から説明される。移動は学内バスだ。
時間がもったいない。速やかに乗れ。」
淡々と告げられる指示。
でもその一つ一つが、現実を突きつけてくる。
(本気の試験だ)
ただの演習じゃない。
(勝たないと)
私は小さく息を吸った。
⸻
相澤先生の指示で、
私は轟くんと一緒にバスへ乗り込む。
前からから、相澤先生も乗ってきた。
同じ車内。
同じ空間。
(もう始まってるみたい)
そう感じるくらい、空気が張り詰めていた。
いきなり轟くんと組んで、相澤先生との試験。
その状況に、胸の奥がざわつく。
でも――
(楽しみでもある)
緊張と期待が、入り混じる。
私は静かに拳を握った。
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