「皆んな…土産話っひぐ…
楽しみに…ううしてるっ…がら!」
三奈ちゃんが涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、
必死に言葉を紡いでいた。
声は途切れ途切れで、
それでもなんとか気持ちを
伝えようとしているのが伝わってくる。
その隣では、上鳴くんが机に突っ伏したまま、
完全に魂が抜けたみたいに動かない。
さらにその後ろには、
言葉少なに俯く切島くんと青山くん。
四人の周りだけ、
教室の中でぽっかりと空気が沈んでいる。
(うわあ…想像以上に落ち込んでる…)
見ているだけで胸がぎゅっとする。
さっきまで一緒に試験を受けていたのに、
こんなにも空気が変わるなんて。
「ま、まだわかんないよ!
どんでん返しがあるかもしれないよ…!」
緑谷くんが前のめりになって声をかける。
その必死さに、私も思わず頷いた。
「そうだよ!相澤先生の合理的虚偽かも!」
少しでも希望が残っているなら、
それにすがりたい。
「緑谷と星宮、
それ口にしたらなくなるパターンだ」
瀬呂くんの冷静なツッコミに、
思わず言葉が詰まる。
(あっ…確かにそういうのある…)
言った瞬間に消える希望、
みたいなやつ。ある。すごくある。
「試験で赤点取ったら林間合宿行けずに
補習地獄!そして俺らは実技クリアならず!
これでまだわからんのなら、
貴様らの偏差値は猿以下だ!!キエエエ!!」
突然、上鳴くんが立ち上がって絶叫した。
次の瞬間、そのままの勢いで
緑谷くんの目に指を突き立てる。
「うわああああ!?」
(えっ、そこいく!?)
思わず身を引く。
「落ち着けよ 長え。
わかんねえのは俺もさ、
峰田のおかげでクリアはしたけど寝てただけだ。
とにかく採点基準が明かされてない以上は…」
瀬呂くんが頭をかきながら言う。
(瀬呂くんも微妙な感じなんだなあ…)
聞けば、ミッドナイトの個性で
即寝落ちしてしまったらしい。
しかも膝枕までされていたとか。
(それはそれでどうなんだろう…)
複雑すぎる。
「同情するならなんかもう色々くれ!!」
上鳴くんの叫びが教室に響いた、その直後。
チャイムが鳴った。
「予鈴が鳴ったら席につけ」
ガラッと扉が開き、相澤先生が入ってくる。
その一言で、さっきまでの騒ぎが
嘘みたいに静まり返る。
全員が一斉に席に着いた。
もうそういうお決まりだ。
「おはよう。今回の期末テストだが…
残念ながら赤点が出た」
その言葉に、教室の空気が一気に沈む。
(やっぱり…)
覚悟はしていたけど、実際に聞くとやっぱり重い。
「したがって…、林間合宿は全員行きます」
「「「どんでんがえしだあ!!!」」」
一瞬で空気がひっくり返った。
(良かったあ…!)
胸の奥がぱっと明るくなる。
「筆記の方はゼロ。
実技で芦戸・上鳴、切島・青山、
あと瀬呂が赤点だ」
「行っていいんスか俺らあ!!」
上鳴くんが跳ね上がるように叫ぶ横で、
「確かにクリアしたら合格とは
言ってなかったもんな…
クリア出来ずの人よりハズいぞコレ…」
瀬呂くんは顔を覆っていた。
(温度差すごいなあ…)
「今回の試験 我々ヴィラン側は、
生徒に勝ち筋を残しつつ、
どう課題と向き合うかを見るように動いた。
でなければ課題云々の前に、
詰む奴ばかりだったろうからな」
その説明に、私は自然と背筋を伸ばす。
(確かに…)
完全に潰されてたら、
何も学べなかったかもしれない。
私を放置したのもミスじゃなくて、
敢えてだったのでは…?
「本気で叩き潰すと仰ってたのは…」
百ちゃんが丁寧に問いかける。
「追い込む為さ。
そもそも林間合宿は強化合宿だ。
赤点取った奴こそここで、
力をつけてもらわやきゃならん。
合理的虚偽ってやつさ。」
「「「ゴーリテキキョギィイー!!
わあい!!」」」
「ほらやっぱりー!」
思わず声が弾む。
(当たった!)
ちょっとだけ嬉しくなる。
「またしてやられた…さすが雄英だ!
しかし!2度も虚偽を重ねられると、
信頼に揺らぎが生じるかと!!」
「わあ 水差す飯田くん」
お茶子ちゃんの一言に、思わず笑いそうになる。
(ほんと真面目だなあ…)
「確かにな。省みるよ。
ただ全部嘘ってわけじゃない。赤点は赤点だ。
お前らには別途に補習時間を設けてる。
ぶっちゃけ学校に残っての補習よりキツイからな」
その言葉に、さっきまで喜んでいた空気が
ぴたりと止まる。
(温度差凄い)
赤点組の表情が一斉に曇るのを見て、
少しだけ同情した。
「じゃあ 合宿のしおりを配るから後ろに回してけ」
紙が順番に回ってくる。
それを受け取りながら、私はほっと息をついた。
(みんなで行けるんだ…)
それが何より嬉しい。
――そして放課後。
教室はすっかり、
いつもの賑やかさを取り戻していた。
「1週間の強化合宿か!」
「楽しみだねー」
「結構な大荷物になるね」
「暗視ゴーグル」
「水着とか持ってねーや。色々買わねえとなあ」
みんなが口々に話す中、
私も頭の中で必要なものを思い浮かべる。
(私も色々準備しないとだなあ…)
その時。
「あ、じゃあさ!明日休みだしテスト明けだし…
ってことで A組皆んなで買い物行こうよ!」
「それいいね!行こ行こ!」
透ちゃんの声に自然と乗っかる。
(みんなで買い物とか絶対楽しい)
その一言をきっかけに、
教室の空気がまた一段明るくなる。
「おお良い!何気にそういうの初じゃね!?」
上鳴くんもさっきまでの落ち込みが嘘みたいだ。
「おい 爆豪お前も来い!」
切島くんが声をかけるけど、
「行ってたまるかかったりィ」
やっぱり断られていた。
(だよね…)
「轟くんも行かない?」
緑谷くんが聞くと、
「休日は見舞いだ」
静かな返事。
(そっか…)
少しだけ残念に思いながらも、
それ以上は何も言わない。
でも、ほとんどの人は参加するみたいだ。
(楽しみだなあ…)
みんなで出かける、
その時間を想像するだけで、自然と頬が緩んだ。
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