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A組全員を乗せたバスはゆっくりと発進し、
そのまま街を離れていく。

最初は少しだけ静かだった車内も、
ものの数分でいつものA組に戻っていった。

「音楽流そうぜ!夏っぽいの!
チューブだチューブ!」

「バッカ 夏といやキャロルの夏の終わりだぜ!」

「終わるのかよ」

上鳴くんと切島くんが隣同士で騒ぎ始める。

(元気だなあ…)

そのやり取りを聞いているだけで、
自然と口元が緩む。

前の席からひょこっと透ちゃんが振り返る。

「綺羅ちゃんポッキー食べるー?」

「食べるー!」

差し出されたポッキーを受け取ると、
甘い香りがふわっと広がった。

(こういうのも遠足っぽいよね)

一本口に入れると、軽い食感と甘さが広がって、
気持ちまで少し軽くなる。

「轟くんも食べる?」

「ああ、ありがとう」

透ちゃんから差し出されたポッキーを、
轟くんも受け取った。

そのまま無言でぽりぽりと食べ始める。

「…うめえなコレ」

(ちょっと意外かも)

隣でお菓子を食べている姿に、
なんとなく新鮮さを感じる。

「轟くんお菓子食べてるイメージないかも。
普段食べたりするの?」

そう聞くと、少しだけ間を置いて、

「いや…たまに頂き物の饅頭とか煎餅とか…」

と答えが返ってきた。

(渋い…!)

「和菓子派なんだね!私はクッキーとか
チョコとか甘い物全般好き!」

思わず明るく言うと、

「そうか」

相変わらず短い返事。

でも、ちゃんと会話は続いている。

(こういうテンポ、嫌いじゃないな)

そう思っていると、

「ねーねー夜菓子パしよ菓子パ!」

前の席から三奈ちゃんが勢いよく振り返る。

「いいねー!楽しそうー!」

私はすぐに乗っかった。

(絶対楽しいやつだ)

頭の中で既に盛り上がる光景が浮かぶ。

でも同時に、

(あ、でも三奈ちゃん補習…)

一瞬よぎるけど、言わないでおく。

今はこの空気を壊したくない。

「菓子パってなんだ?」

轟くんがこちらを見る。

「お菓子パーティーだよ!轟くんも混ざる?」

自然と誘ってみると、

「いや…そんな時間ねえだろ」

あっさり断られた。

(まあ、そうだよね)

でも嫌な感じは全然しない。

むしろ、轟くんらしいなと思う。

そんな何気ない会話をしているうちに、
バスの外の景色が少しずつ変わっていく。

ビルや家が減り、緑が増え、道も細くなっていく。

(だんだん山っぽくなってきた)

揺れも少し大きくなり、
バスは山道へと入っていった。

やがて、道の途中にある少し開けた
窪地のような場所で、バスが止まる。

「全員降りろ」

相澤先生の一言で、私たちは順番にバスを降りた。

足元に広がるのは土と草。

見上げれば山の緑が広がっていて、
空気も少しひんやりしている。

(景色はいいけど…)

周りを見渡しても、それ以外には何もない。

「何ここパーキングエリアじゃなくね?」

「ねえアレ?B組は?」

ざわざわと声が広がる。

確かに、さっきまで一緒にいたはずの
B組の姿がない。

(どういうこと…?)

その時、

「お…おしっこ…トトトトイレは……」

峰田くんが今にも限界そうに飛び出そうとする。

その前に、すっと相澤先生が立った。

「何の目的もなくでは意味が無いからな」

静かな声。

その直後、前方の茂みから人影が現れる。

「よーーーう、イレイザー!!」

「ご無沙汰してます」

親しげに話しかけてくるその人たちに、
相澤先生が軽く頭を下げる。

(知り合い…?)

そう思った瞬間――

ザッ、と影が動いた。

「煌めく眼でロックオン!」

「キュートにキャットにスティンガー!」

「「ワイルド・ワイルド・
プッシーキャッツ!!」」

目の前で決めポーズを取る二人の女性ヒーロー。

ふわふわの猫の手袋に、
メイド服のようなコスチューム。

(すごいインパクト…)

一瞬、言葉を失う。

「今回お世話になるプロヒーロー
プッシーキャッツの皆さんだ」

相澤先生が淡々と紹介する。

(さらっと流すんだ…)

その温度差に少し驚く。

「連盟事務所を構える4名1チームのヒーロー集団!
山岳救助などを得意とするベテランチームだよ!
キャリアは今年でもう12年にもなる…」

緑谷くんが勢いよく説明を始めた瞬間、

肉球の手袋が顔面を押さえた。

「心は18!!!」

ピクシーボブの勢いに、思わず目を瞬かせる。

(圧がすごい…)

「ここら一帯は私らの所有地なんだけどね。
あんたらの宿泊施設はあの山のふもとね」

マンダレイが指差した先。

遠くに見える山のふもと。

「「「「遠っ!!」」」」

(え、あそこまで?)

距離感に思わず固まる。

「え…?じゃあ何でこんな半端なとこに……」

「いやいや…」

「バス…戻ろうか……な?早く…」

ざわつきが一気に広がる。

嫌な予感しかしない。

「今はAM9:30 早ければぁ…12時前後かしらん」

マンダレイの言葉に、空気が一瞬で変わる。

(まさか…)

皆がじりじりと後ずさる。

「ダメだ…おい……」

「戻ろう!」

「バスに戻れ!!早く!!」

上鳴くんが走り出す。

他の皆も一斉にバスへ向かおうとした、
その瞬間――

「12時半までに辿り着けなかった
キティはお昼抜きね」

ピクシーボブが地面に手を当てる。

(え)

次の瞬間、

「悪いね 諸君。合宿はもう、始まってる」

相澤先生の声。

地面が、動いた。

(――っ!?)

足元の土が波のように盛り上がる。

視界が一気に揺れ、体が浮く感覚。

(なにこれ――!!)

次の瞬間には、足場ごと押し上げられ、
そのまま崖の下へ――

落とされた。







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