集い


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「いらっしゃいませー!」

扉を開けると、活気のある声が飛び込んできた。

店内は大勢の客で賑わい、
あちらこちらから笑い声や食器の
触れ合う音が聞こえてくる。

紫乃が訪れたのは、瀞霊廷内の商業区にある
大衆居酒屋だった。

今日は松本乱菊の主催で、
副隊長を中心とした飲み会が開かれている。

「何名様ですか?」

店員に尋ねられ、
紫乃は店内を見回しながら答えた。

「待ち合わせです。
松本で予約をしていると思うのですが……」

「ああ、もしかして檜佐木様でしょうか?」

「……多分、そうです」

乱菊が主催のはずなのに、
何故か予約や店とのやり取りを任されるのは
檜佐木だった。

紫乃もすっかり慣れてしまい、
またか、と苦笑をこぼす。

店員に案内され、賑やかな店内を進んでいく。

やがて通されたのは、店の奥にある座敷だった。

「お待ち合わせ一名様、ご案内でーす!」

明るい声と共に襖が開く。

「紫乃さん、おそーい!」

真っ先に聞こえてきたのは、
聞き慣れた乱菊の声だった。

その場には乱菊のほか、
何人かの副隊長や席官たちが集まっている。

しかし――。

全員が揃うのを大人しく
待っていたわけではないらしい。

酒好きの面々が、そんな行儀よく
待っているはずもなかった。

すでに乾杯は済ませていたようで、
卓上には酒や料理が所狭しと並んでいる。

「お飲み物、伺います!」

店員に声を掛けられ、
紫乃は少し考えてから答えた。

「お勧めの冷を一つお願いします」

「あと、ビール一つ!」

すかさず乱菊が追加する。

「ビール三つで!」

斑目一角と射場鉄左衛門も続けて注文した。

十一番隊の副隊長は草鹿やちるだが、
当然まだ子供であるため、
この飲み会には参加していない。

代わりに三席の斑目一角と、
五席の綾瀬川弓親が参加していた。

また、まだ療養中の
五番隊副隊長・雛森桃をはじめ、
一番隊、二番隊、四番隊、八番隊、十二番隊の
副隊長たちも欠席している。

今回は、乱菊が普段から声を掛けている
酒好きの面々が中心となった飲み会だった。

紫乃は乱菊の右隣に腰を下ろす。

その隣には、幹事を任された
檜佐木修兵が座っていた。

「乱菊、また修兵くんに幹事やらせたでしょ」

紫乃が呆れたように言うと、
乱菊は悪びれる様子もなく答えた。

「だって、予約とか面倒くさいんですもん」

「隊長業務も兼任して忙しいのに……
ごめんね、修兵くん」

紫乃が隣の檜佐木へ申し訳なさそうに声を掛ける。

「いや、俺は大丈夫っスから……!」

自分より上の立場である紫乃に謝られ、
檜佐木は慌てて手を振った。

そこへ、注文した酒が運ばれてくる。

「冷一つと、ビール三つ、お持ちしましたー!」

店員が卓上へ酒を並べ、
そのうちの一つが紫乃の前に置かれた。

「紫乃さん、アタシが注ぎますよ!」

「ありがとう」

紫乃は素直にお猪口を差し出す。

乱菊が手にした冷用のガラス徳利から、
よく冷えた酒が静かに注がれていく。

涼しげな江戸切子のお猪口に、
透明な酒が満たされた。

「じゃあ、全員揃ったことだし……
改めて、かんぱーい!」

乱菊の声を合図に、酒を掲げたグラスが
一斉にぶつかる。

涼やかな音が座敷に響いた。

紫乃もお猪口を口元へ運び、一口含む。

ひやりとした酒が舌に触れた瞬間、
ピリリと引き締まるような苦味が広がった。

それでいて、日本酒特有の
柔らかな甘みと香りが後から追いかけてくる。

「……美味しい」

紫乃が小さく呟く。

隣では乱菊が、

「ぷはー!」

と豪快にビールを飲み干していた。

その姿を横目に見ながら、
紫乃はもう一口、酒を口に含む。

副隊長たちがこうして集まれば、話題は自然と、
それぞれが仕えている隊長の話へと流れていく。

もっとも――。

誰も、空席となった
隊長たちの話題には触れなかった。

まだ事件の傷跡が消えていないことくらい、
皆が分かっている。

代わりに紫乃が話題にされるのは、
先日の『瀞霊廷通信』の特別アンケートだった。

「浮竹隊長、あんなに長々と回答するとは
思いませんでしたよね」

「花房さん、ちゃんと読んだんスか?」

「うん。読んだよ。
隊長の女性の好みとか知るの
ちょっと気まずかったけど…」

と紫乃は直接聞こうとした
あの空間を思い出して苦笑いをこぼし
酒を一口飲んで、直ぐにお猪口に注いだ。

「確かにそうっスよね」

阿散井はうなづいてビールを飲み干した。

「うちの隊長にそんなアンケート出したら
とにかく強え奴としか答えねえだろうな」

十一番隊隊長である更木剣八の部下である斑目は
そう言ってビールを飲む。
その隣で華やかなカクテルを飲む弓親もうなづいた。
確かにあの隊長なら想像がつく回答だ。

そんな話題でひとしきり笑った後は、
ほとんどが乱菊による日番谷への愚痴だった。

「だからね、隊長ってば――」

「また始まった」

「今日は何時間コースだ?」

聞き慣れた面々は、呆れ半分、
慣れた様子で苦笑しながら
乱菊の話に耳を傾けている。

しかし。

聞けば聞くほど――。

どうにも日番谷隊長の方が大変そうだ。

「……それで、隊長がね!」

乱菊はまだまだ元気そうにビールを傾けている。

その隣で、紫乃は小さく笑いながら
お猪口を傾けた。

冷えた酒が、静かに喉を通っていった。







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