外
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鉄格子の向こうにいる男を前にして、
浦原は足を止めた。
ここへ来た目的は、最初から一つだった。
「涅さん、お久しぶりっス」
「また君かね」
涅マユリは、浦原へ一瞥を向けた後、
その視線を後ろへ移した。
「此処の管理は、後ろの女に
変わったんじゃないのかね?」
視線の先にいるのは、紫乃だった。
紫乃自身、マユリと直接顔を合わせたことはない。
しかし、蛆虫の巣の管理を任されている以上、
収容者たちの間で自分の名が知られていること
くらいは想像がついた。
「そうなんスよ」
浦原はいつもの調子で笑う。
「実は僕、他所の隊長に昇格しまして」
そう言って、自分の羽織をひらりと見せた。
「ほら、隊長羽織。しっかりしてて、
まだ慣れないんスけど着心地は良いっスよ」
「君のような男が隊長とは…
人材不足が懸念される世だね」
マユリは鼻で笑うように言うと、
興味を失ったように顔を背けた。
「ええ。僕はまだまだ未熟でして」
浦原は気にする様子もない。
「だからこそ、貴方に会いに来たんスよ」
その言葉に、マユリが再び浦原へ視線を戻した。
浦原は鉄格子の前まで歩み寄る。
そして、いつもの柔らかな笑みを浮かべたまま――。
「涅マユリさん」
一拍置いて、告げた。
「ここを出て、ボクと一緒に来てもらえませんか?」
「え……」
紫乃の口から、思わず声が漏れた。
それ以上に反応したのは、ひよ里だった。
「何言うてんねん!!」
思わず浦原へ詰め寄る。
無理もない。
ここに幽閉されるほどの危険人物を、
自分の隊へ連れて帰ろうとしているのだ。
しかも、それだけではない。
浦原は淡々と、その理由まで説明し始めた。
「これから十二番隊は、
研究に特化した隊にしようと考えています」
「その名は、技術開発局」
浦原の目が、僅かに輝く。
「それを進めていくためには、
貴方のお力も必要なんス」
マユリは黙って浦原を見つめている。
「来てくだされば、
十二番隊としては三席をご用意します」
さらに続ける。
「技術開発局では
――副局長の座をご用意しますよ」
破格の条件だった。
けれど、マユリは露骨に嫌そうな顔をした。
「嫌だね」
「即答っスか」
「誰が喜んで君の下に就くんだね」
そう言って、再び顔を背ける。
しかし浦原は、まったく引く気配を見せなかった。
「じゃあ、こう考えることもできるっスよ」
「……?」
「僕が死ねば――」
浦原は、あまりにも軽い調子で言った。
「その後は全て、アナタの思いのままだ」
「…………」
その言葉に、マユリがゆっくりと浦原を見る。
そして――。
「それは愉快な提案だ」
口元を歪め、にやりと笑った。
その表情を見て、ひよ里は
ますます不安そうな顔をする。
一方、紫乃は黙って二人を見つめていた。
浦原が何を考えているのか。
今の言葉が、どこまで本気なのか。
紫乃にはまだ分からない。
ただ一つ確かなのは――。
浦原喜助は、本気で涅マユリを
十二番隊へ連れて行くつもりだということだった。
蛆虫の巣を出ると、
三人は入口で預けていた
斬魄刀をそれぞれ受け取った。
浦原は斬魄刀を仕舞いながら、紫乃へ振り返る。
「夜一さんの許可が下りたら、手続きのこと、
紫乃さんにお願いしていいっスか?」
「それは構わないけど……」
紫乃は少し考える。
「色々と申請も必要だし、検査も多いから。
すぐに、というわけにはいかないよ?」
「そこは承知済みっス」
浦原は当然のように頷いた。
「その辺りも含めて、
夜一さんにはお願いしておくつもりなんで」
「……そう」
紫乃は、改めて浦原の行動力に驚かされていた。
思いついたら、すぐに動く。
しかも、必要な手続きまで
きちんと計算に入れている。
昔からそうだった。
「お前は何を勝手に決めてんねん!!」
突然、ひよ里の怒声が響いた。
次の瞬間――。
ドンッ!
浦原の背中へ、ひよ里の蹴りが入る。
「異常者を十二番隊に引き込んで、
お前が死んだらあいつが長やと!?
舐めとんのか!!」
「いたたたた!」
浦原は前のめりになり、背中をさする。
「研究については、ひよ里さんは未経験で、
まだ助手じゃないっスか!」
「それが何やねん!」
「いや、だから――」
浦原が説明しようとするが、
ひよ里は聞く耳を持たない。
そして今度は、紫乃へ指を突きつけた。
「お前も何をすんなり認めてんねん!」
「え?」
「異常者を外に出す言うとるんやぞ!!」
「……」
紫乃は少しだけ浦原を見る。
それから、ひよ里へ視線を戻した。
「浦原隊長は、元々こういう人なので……」
苦笑いを浮かべながら、そう答える。
「何やねん、こいつら!!」
ひよ里の叫び声が、地下へ響き渡った。
その後もしばらく、ひよ里は
不機嫌そうに浦原へ怒鳴り続けていた。
その横で浦原は、いつものように
困った笑顔を浮かべながら、
何とか彼女を宥め続けていた。
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