堕とされる組織









ポートマフィア五大幹部会

ポートマフィアには五人の幹部が在籍しており、
組織運営の意思決定の権限を待つ。
首領が倒れてから初めての幹部会。
それは幹部の一人 石川啄木が殺害されてから
八日後に開かれた。



「このままではポートマフィアは疎か、
ヨコハマが消え兼ねる由々しき事態である。
何とか阻止しなければならない。」

「だが首領は最早それを望んでいる。
我々は首領と共に死ぬ事が組織に入った時から
そう誓って共に歩んで来たのではないか。」

「ポートマフィアは消えてはならない。
消えれば裏社会は壊滅し、表までも侵略され、
政府では収集つかなくなる程 膨れ上がり、
ヨコハマの街全てが戦場と化す事など
あってはならない。
この街はその価値がある美しき街だ。」



討論し合う幹部らに対し、
志賀は腕を組み顔を俯かせ目を閉じていた。
眠っている訳ではないが彼らの話に興味は無い。



「志賀。貴様はやけに首領の指示に従い
組織を荒らしているが真意は何だ?
お前が首領に誓いを立てているとは思えん。
深い恨み…私には分かる。貧民街でのーーー…」

「血の掟と堅く決めたのはお前らだ。
だったらどういう形であろうと
それに従うまでじゃないのか?
石川は首領を裏切ったから殺された。
此処で論じる意味などないだろう。
俺は此処で席を外させてもらう。」



幹部の一人 内村鑑三が志賀の過去について触れると
それを遮るかのように志賀は話し始め、席を立った。



ガタン!「待て!まだ議論は終わっていないぞ!」

「そうだ。石川啄木を誰が殺ったのかも
明確になっていない。席に戻れ。
幹部会を何だと思っている。」

「言ったはずだ。石川は首領を裏切って殺された。
首領に殺されたも同然。そしてこの議論をした所で
首領に刃向かう幹部がいるのならそれは
裏切り者だと首領に報告しなければない。」

「貴様……やはり石川を…!」ガタッ

「首領の命令だ。従うだろ?それが掟だ。
お前らが散々口にしてきた血の掟とやらを
俺は従順に従っているだけだが?」

「ただの腐った野良犬だった小僧が……!」

「失敬。仕事が溜まっているんでな。」



腐った野良犬呼ばわりまでされるが、
志賀は聞き流し一人会議室から出て行った。



「小童が生意気な事を…」







会議が終わり外へ出ると、
広津が車の前で立って待ち構えていた。



「状況はどうだ?」

「平行線に続いております。」

「こっちは敵とやり合ってる中
御構い無しに幹部会を開くたあ、
奴らは自分の組織の事しか頭にねえな。」

「……五大幹部会は重要な会議の為、
全ての事情に合わせては招集出来なくなります。」

「は……無駄な時間だ。」



志賀はそうから笑いして広津が開けた車に乗った。



「E社はAG社と競合して海外組織を雇い、
うちとやり合う気だ。長引けば面倒になる。
今日中に両社制圧させる。」

「…はい。」

「面倒事が一度に片付けば良いんだがな。」

「……」



志賀がぽつりと呟いた言葉に、
広津は答える事は無かった。








ーーーーー……




薄暗い部屋に大きなベッド。
そこに横たわる老人は組織のトップであった。



「初めまして首領。私は森と云います。
容体はどうですか?脈は安定しておりますね。」

「新しい医者か……、
前の奴はわしを殺そうとして殺した。
わしを生かせ…センセイ…
まだやるべき事が山ほどある……
ポートマフィアを組織の頂点にするまでは…」

「ええ、全力を尽くします。」



街の闇医者だったら森鴎外は
ポートマフィアの首領のベッドにまで
足を踏み入れていた。



「………」



彼の背後には志賀が肩をぶつけた少年が立っていた。