「つまりさ、人間って無駄なことばかりして生きてるってことなんだけどね」

臨也はいつものように長々と、あたしが関心を向けないのに言葉を続けた。大体そんな話をするために毎回毎回あたしをマンションに呼ぶのはどうかと思う。呼んだくせに自分はパソコンをいじっていたり仕事をしていたり。思いついたようにいつも人間について語ってみたり。
何だかんだ彼に会いに来るあたしもどうかと思う。でも彼の、綺麗な顔をしているくせに性格が歪んでる部分に少なからず興味を持っているのも本当だった。

「その無駄さえも人間の愛すべきところだよね」

いつもいつも、臨也は人間が好きだと言う。愛していると言う。彼の愛する人間という生き物に自らも該当しているのを忘れているのか、彼は恐ろしいまでに歪んだ形で愛を表現する。それが本当に愛なのか、そんなことはどうでもいい。だってそんなことはそれこそ彼の言う人間の無駄の一部なのだ。あたしが彼に対して何かを考えることや望むこともきっと無駄なのだろう。

「ねぇ、臨也は無駄だと思わないの?」
「何が?」
「あたしにこんな話をするのが」
「そうだねぇ。全然興味なさそうだし聞き流してるみたいだけど」
「みたい、じゃなくて実際そうなんだけど」

あたしがひとつため息を吐くと、臨也はでもと口を開いた。本当によく喋る。その内容が誰かを幸福にする内容だったら彼はこんなに嫌われたりしないだろうに。ああ、だけど人間そのものを愛していると特異なことを言う彼は異端だ。だから嫌われたり疎まれたりするのは仕方がないのかもしれない。人間は異端には酷く冷たいと思う。しかし彼なら、その様すら愛するのだろうか。

「でもそんなこと言う割に、所々ちゃんと聞いてたみたいだからあながち無駄なことじゃないかもね」
「無駄だって。臨也にも誰にもメリットないし、」
「あはは、あるよ」

乾いた笑い声のあとに臨也は続けた。それがとても真面目なような、冷めたような、苛立ちを込めたような声に聞こえてあたしは退屈しのぎに弄っていた携帯電話をぱたりと閉じる。

「面白いからね、君は」
「あたしは何も面白くないんだけど」
「だからさぁ、わざわざ呼び付ける理由とか考えないわけ?ほんっとバカだよねえ。そこが面白いんだけど」
「…理由?」

考えなくていいよと臨也は言う。考えても俺は楽しくない、と。別にあたしは臨也を楽しませてあげようなんて思ってないし、むしろもっと黙ってくれたなら愛されるんじゃないかと思う。彼の愛する人間に。彼がみんなに愛されてほしいわけじゃ、ないけれど。

「じゃあさ、理由ついでに。臨也はどうして人間を愛してるわけ?面白いからって理由だけ?」
「そう言う質問が無駄なんだよねぇ、そう思わない?」
「あー…そうでした。あなたには」
「個人の見解なら聞いてあげてもいいよ。よく君は的外れで愉快だから」

そう言った彼はあたしから視線を反らした。またカタカタと音がする。でもあたしはまた携帯電話を開くわけじゃなく、彼を、彼の背中を見つめ続けた。あたしは一体彼のこう言う面に興味をそそられるのか。はたまたこれは興味というには似て非なる感情なのか。
しばらく彼を見つめたあとにあたしは口を開く。あたしの考えを、彼は本当は聞きたいのだと思う。自意識過剰だとかじゃなくて、あたしは彼の言うあたしを呼び付ける理由を考えたことがあったから。その理由があたしの興味と似ている彼の感情だと結論付けたから。

「…あい、されたいから」
「っ、あははは!君の頭の中がどうなっているのかほんっと分かんないや。でもそう思うんならさ、」

携帯を開いてまた、彼が人間に語る前に戻る。彼はパソコンのキーを叩いて、あたしは携帯のボタンをかちかちと鳴らす。

「俺を愛してみてよ、」

あたしの存在は、彼にとってきっと無駄じゃないと、声を上げずに頷いた。