曇り空から、たちまち大きな雨粒が落ちてきた。
今日は晴れのち曇り、降水確率は20パーセントだとお天気お姉さんが告げていたのを思い出す。あんまり爽やかに笑うので、そうかそうか、雨は降らないのかと傘を持たずに登校した自分を呪いたくなった。お姉さん、雨降りましたよ。晴れのち曇りのち雨でしたよ。そんなことを思いながらあたしは昇降口から出られず、雨に煙る校門を眺めていた。こんな時間じゃ友達はみんな帰ってしまっただろう。先生は車で帰れるからいいのだろうが、雑用を押し付けられたあたしは駅まで徒歩なのに。全く、災難だ。

「雨、けっこう降ってるね」

すぐ近くで声がして、びくりと肩を揺らした。雨に気をとられて足音に気が付かなかったようで、少し後ろに同じクラスの水谷が靴を持って立っていた。

「びっくりした。て言うかあんたこんな時間まで何してたわけ?」
「いやー、練習終わってから呼び出されてさ。ほら、今日の英語の課題あったでしょ?出してなくて」
「あーあれは時間かかるわ。誰かから見せてもらえばよかったのに」

地面を叩く雨音が、薄暗くなった校舎にこだましていた。心なしか雨が弱まってきたように感じながら、帰る生徒のまばらになった足音を聞く。靴を履いた水谷は荷物を持たずにあたしのとなりに立った。

「そっちは日直の仕事だよね」
「よくご存知で。天気予報で降水確率低かったから傘持ってこなかったんだよね。先生も生徒の通学くらい考慮して早く帰らせてくれればよかったのに」
「あはは、俺も降水確率低かったから降らないと思ってた。あ、そうだ」

へらり、笑う水谷は何か思い出したようにポケットを探る。

「ごほうび」

握った何かを差し出されたものだから、あたしは咄嗟に手を出した。これで変なものだったらどうするつもりだったんだ、あたし。そう思っていると彼の手からあたしの手に、あめがふる。

「雨にちなんで飴、なんてね」

日直お疲れさま、と目を細めてまた笑う水谷は薄暗い校舎にぱっと明るく映えるようで、一瞬だけ、目がそらせなくなった。

「あ、ありがとう」

そんなやりとりをしていると雨足はだんだんと弱まってきてるようで、もう少し待てば歩いて帰れるようだった。

「雨、止みそうだね」

飴をひとつ、口に含みながら外を覗くあたしを見て水谷が言った。大粒の雨で煙っていた景色は、細やかに落ちる雨で先ほどよりはっきりとした。

「うん、通り雨で良かった」

あたしがそう言うと水谷はカバンを持って、どこに置いていたのか傘を持った。

「えっ水谷、傘あったの?」
「まあ、ないとは言ってないね」

言うと水谷は、少しだけいたずらっぽく笑うと駅まで送ってくよ、と言った。

「いやいやいいよ!って言うか早く帰ればよかったのに。ごめんね、付き合わせて」
「いや、俺が話したかったから居ただけ。ほら、傘入って」
「いや、大丈夫だか…」
「こんな時間に女の子一人は危ないからさ」

水谷は半ば強引にあたしの腕を引くとそのまま、まだ少し小雨が水溜まりを揺らす濡れた地面に出た。

「もっと寄らないと肩濡れるよ?」
「だ、大丈夫だって!」
「いいから、ほら」

ぐっと距離が近づいて、あたしの脈拍も跳ね上がる。緊張感がどうしようもなくて何となくカラカラと口の中で飴を転がした。

「ソーダの匂い」

水谷がただでさえ近い距離を縫って顔を近付けて言う。

「あたり」

どきどきするのを悟られないように短く言うと、うれしそうに水谷が笑う。

雨が弾ける。ソーダが弾ける。そしてついでにあたしの恋も弾けそうな感じ。