彼女がしあわせになるならばもう何も望まない。
「悪い、お前のこともう好きじゃない」
だから別れよう。何度もシュミレーションして、彼女が何も言えなくなるような言葉を選択した。
残酷だがこれが仕事を優先すると決めた俺の答えだと自らに言い聞かせて、彼女の心を引っ掻き回した。
それでもどうしても嫌いという嘘だけは何度練習してもうまく言える気がしなくて。
「零くんの言いたいことは、わかるよ。何年一緒にいると思ってるの」
笑いながらも彼女がこぼした涙はあまりに切なくて、こんな顔はさせたくないと思っていたくせにと罪悪感に飲まれそうになった。
でも、絶対に目は逸らさない。
なぜならば彼女の笑った顔も、泣いた顔も、きっとこれが最後なのだから。
「…わたしも零くんのこと、だいきらい。だから零くんは、勝手にちゃんと…幸せになって」
彼女が吐き出した「きらい」という言葉はどこか遠く、作りもののよう聞こえる。
向こうのガラスに映る自分と目が合って、そこで腑に落ちた。ああ、なんて顔をしているんだろう。何度もセリフを推敲して、うまく言えたと思ったのに。こんなの、好きじゃないなんて嘘だと言っているようなものだ。でも。それでも。
手放そうと、そう決めた。
何もかもを見透かしていた彼女が下手くそで説得力のない嘘を吐いてまで、俺にとどめを刺したのだ。
「…お前も幸せに、な」
そうしたらもう、俺は歩き出さなければいけない。こんなにも背中を押してもらっているのだから、自分の足で、一人でも。
彼女がしあわせになるならばもう何も望まない。たとえ自分のしあわせでさえも。
きっともう俺は一生分の、恋をしたのだから。
お題*「嫌い、嘘。大嫌い、」
ツイッターにて企画、#DC夢題 に提出させていただきました
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