秘密の場所

私と霧野蘭丸は謂わば”幼馴染”と言う奴で、幼稚園生の頃から一緒に遊んでいた仲だった。家も近い、親同士も仲が良いという、少女漫画でよくありそうな間柄のせいで、友人には何度もからかわれた事がある。実際私も、少女漫画のような展開にならないかと希望に夢を膨らませていた時期があった。そりゃあ、運動神経は抜群で顔も整っていて気の知れている彼とずっと一緒にいたら恋心だって抱かざるを得ない。しかし現実は夢など見させてくれず、蘭丸とは付かず離れずの微妙な”幼馴染”という関係に縛られているままなのだ。

ぼんやりと蘭丸を思い出しては溜息をついていると、後ろから「満」と声を掛けられ、私の肩にぽん、と手が乗る感触を感じた。くるりと振り返ってみると、そこには今さっき悩まされていた種、つまり張本人が息を切らして立っていた。

「満、今帰りか?」
「うん、そうだけど……どうしたの、そんな息切らして。今日の練習はそんなにキツかったの?」

息を整えながら私にそう聞いてきたので答えると、「よかった、間に合って」と優しく笑って言ってのけた。ああもう、これだから蘭丸は鈍感なんだ。モテるくせに、こういう所で無意識を発揮するからタチが悪いのだ。

その後で「練習はいつも通りだった」と言った蘭丸に疑問符を浮かべる。

「練習でなかったら何、もしかして私と帰りたかったとか?」
「ああ、そうなんだ」
「へえ〜…………はぁ!?」

ふざけた感じで笑いながら試しに言ってみたら、それは本当だったようだ。まるで昨夜見た夢が実は正夢でしたとカミングアウトされているような気分だ。驚きでぱくぱくと口を震わせていると、蘭丸がきょとんとして私を見てくる。暫くして自分の発言に気が付いたのか、徐々に頬を髪の毛と同じ色に染め上げて行く。

「あ、いや、今のはそういうのじゃなくて…!その、なんだ…」
「い、いや別に気にしてないから、ね?ほら、早く帰ろう」

慌てながら誤魔化す蘭丸に、私はどうにか話を終わらせられないかと催促する。

こうして顔を赤くして感情を表に出すのも、彼のタチの悪い所の一つである。こんな反応をされたら誰だって期待してしまうものだ。しかし、長年築いてきた”幼馴染”というレッテルはかなり頑強に貼り付けられているもので、ここで何かアクションを起こしてしまっては積み重ねた関係が崩れ落ちてしまいそうなのだ。いつまで経っても私は臆病なままなのだ。友人は皆「当たって砕けろ」精神で、真反対な彼女達を何度神格化した事か。

先に進む私の後を駆け足で追ってくる蘭丸を横目で見ると、幾分か赤みは消えていつも通りの凜々しい表情をしていた。ほら、こんな感情を抱いているのは私だけなのだ。いつまで経っても空回りだなんてもう嫌なのに、この黒く渦巻くような感情は私を捕まえて離れないのだ。



(ただ、二人でいられるのはこの道だけだから)

私はちゃんと向き合いたいのに