並んで歩いた帰り道

「分かっていないのはどっちだ!俺の気も知らないで、好き勝手やっていたのはそっちだろ!」
「っ、蘭丸、」

もういい、そう言って去って行った蘭丸の瞳は冷たく揺れていた。

ついにやってしまったのだ。これが初めてという訳ではないが、蘭丸と喧嘩をしてしまったのだ。只でさえ微妙な関係なのだから、これを壊さないように細心の注意を払っていた筈なのに。この喧嘩はそもそも私が悪い。今まで溜まっていたものを、蘭丸に八つ当たりしてしまったのだ。蘭丸の「お前が幼馴染で良かったよ」という、何気ない一言で私がせき止めていた感情のダムはいともたやすく崩れ落ちてしまったのだ。

蘭丸は何も悪くないのに、私はそんな彼に酷い事を言ってしまった。今ままで沢山喧嘩をしてきた。その分仲直りもした。でも、今日の事は全く勝手が違うのだ。蘭丸に謝らなければいけない。……でも、今はそんな余裕は無かった。とにかく蘭丸に会いたくない。きっと今蘭丸に会ってしまったら、私は上手く謝れないだろうから。

「……帰ろ」

ぼそりと呟いて、私は重たい足を引きずるようにしてゆっくりと歩いていく。校門を抜けて、信号を待って。そんな帰り道に蘭丸がいないだけで、何だか寂しく感じてしまう。まるでぽっかりと心に穴が開いてしまったかのようだ。

蘭丸とは幼稚園に入る直前、私がこの町に引っ越して来た時に初めて顔を合わせた。第一印象は、女の子。実際に口にはしなかったが、幼い私はかわいらしい容姿と二つ結びの彼を見てそう断定するより他になかったのだ。蘭丸は幼少期から綺麗な子で、話しかけられた時はびっくりした。まさかこんな綺麗な子が私とお話してくれるとは思ってもいなかったのだから、それはそれは驚いた。

それから仲良くなるのは結構早いもので、一緒にいることが普通となっていった。しかし、私が恋心を抱き始めたのはいつだったか。……ああ、そうだ。小学生の時だったか。思春期を迎える直前、あれはたしか4年生くらいだった。ふと、友人に好きな人は誰なのだと問われたのだ。その時の私は“恋愛”の”れ”の字も頭に無いような女子らしからぬ女子で、疑問符を浮かべたのを鮮明に覚えている。その後幼馴染である蘭丸の名前を出された時に、ようやく気が付いたのだ。心のもやもやの名前を恋として名付けると何故かそれがしっくり来たから、きっとそうだったのだろうと一人で完結に導いていた。

でもその感情を打ち明ける勇気など全く持てず、今の今まで心にしまっていたのだ。今まで抑えられていた気持ちが何故今崩壊してしまったのかは私にも分からないが、とにかくこのままでいるのは嫌なのだ。

「一人で悩んで、失敗して、馬鹿みたい」

そんな独り言を拾ってくれる人が隣りにいないというのはどれだけ心苦しい事なのかを、今更知ってももう遅かった。



(かみさま、どうかわたしをつよくしてください)

神頼みしか出来ない私に罰を