「部長って、なんでアイドル科に入ったんですか?」
何を唐突に思ったかは知らないが、滅多に口を利かない友也は、あれ程苦手意識を持つ渉へとそんな質問を投げた。
「気になります?」
「そりゃ、あんたなら演劇科の方が向いてるだろうし……」
「それはそれは、なんとも友也くんらしいありきたりな発想ですねぇ」
「う、うっさいな!ていうか、今はその話をしてるわけじゃないし!」
「部長あまり友也を揶揄わないでくれ。……あと、それは、俺も少し気になっていた」
友也を庇いつつ、ちゃっかり自分の意見を付け足す北斗に、渉は少しだけ参ったように笑う。とはいえ、仮面を付けた渉に、その下の表情を悟らせる隙はないのだが。
「単純な理由ですよ。幼馴染が、アイドルを好きだと言ったものですから」
「へぇ、……お、幼馴染!?」
その理由よりも、幼馴染がいるということに食いついたようだ。初めて聞かされた幼馴染の存在に、目を剥いて驚く友也。対して、彼ほどリアクションは大きくないものの、北斗も僅かに目を見開いていた。
あの部長の幼馴染だ。きっと、渉に負けず劣らず奇想天外な人なのだろうと友也は思う。そんな友也の想像を見抜いたのか、渉は目を細めた。
「言っておきますけど、貴方達が想像しているような人ではありませんよ。慎ましやかで大人しくて……まぁ良くも悪くも平凡といった印象でしょうか」
「な、なんだ……、にしても、その人の理想に近付くためにアイドルになるなんて、部長も中々かわいいことしますね」
渉がその幼馴染に想いを寄せていると知ったのだろう。仕返しとばかりに揶揄う友也に否定の言葉は返さず、渉は微笑みだけを残して、手元の台本へ視線を落とした。
「……寧ろ、遠退いた気がしますけどねぇ」
そう一人ごちり、渉は目を閉じる。
今も昔も、きっとこれからも、渉のお姫様は彼女だけだというのに、彼女が自分の手を取り踊ってくれることは、もう無いのだろう。
手作りの団扇に、サイリウム。
今や彼女の手は、その二つで塞がってしまった。
[日々樹渉の幼馴染事情・完結]
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