07



 キラキラと、照明が点灯して、思わず目を閉じてしまいそうなくらい眩しいステージ。でも、その中で一番輝いているのは照明でなければサイリウムの光でも無かった。

「……日々樹くん」

 声が零れると同時に、何故だか無性に泣きたくなった。今、この瞬間、彼を非難する声など全て遮断され、聞き慣れた彼の声だけが鼓膜を振動させる。

 ――みんなのアイドル

 アイドル共通とも云えるその実にチープなキャッチフレーズが、彼の姿と一致する。それと同時に、今までの苦労が全て杞憂であったことが証明された気がした。

「わた、る」

 感嘆とともに吐き出したのは、幼稚園以来口にできなかった久しい呼び名であった。

 日々樹くん、渉くん、渉、
 今ならなんとでも呼べる気がした。ステージで歌う彼の姿を見て、ずぅっと胸につっかえていた物が、今漸く取れたような気がしたのだ。

 彼は私の視線に気付くことなく、歌い続ける。決して交わらないその視線が、心地良かった。
 もう彼が私の手を取ってくれることも、一緒にダンスを踊ってくれることもないだろうけど、この位置から彼を見つめることが出来るなら、一生このままでもいいとさえ思った。私は、ずっとこの距離を望んでいたんだろう。

 私は日々樹くんが好きだ。そして、日々樹くんも、きっと私が好きだった。けれど、その好きには決定的な違いがあった。

 ぽろぽろと溢れる涙もそのままにただ声を上げた。もう何も悩む必要なんてなかった。


 彼はアイドルになった。
 やっと、私の手が届かない場所へと行ってくれたのだから!
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