審神者の寿命は短い。
それは普通の人なら使うはずのない霊力という力を使うからだ。霊力の消耗は人によってそれぞれで、一年や二年で尽きるものもいれば、十年と持つ者もいる。審神者の大半は霊力が尽きる前に現世へと帰されるのだが、それでも、永くは生きられないと聞く。それなら、いっそこの本丸で死んでくれたらいいのに、と思ったり、思わなかったり。
俺がこんな縁起でもないことを考えてしまうのは、そんな別れの日というものが刻一刻と近付いているからであった。
ついに、審神者としての霊力が尽きたとかで、六年間この本丸の主を務めていた審神者の元にも解雇辞令が届いた。そのこと自体は別段珍しい話でもなんでもないし、主の同世代の審神者の中には既に引退している人もいた。
後任も既に手配されていて、主がいなくなったあとはその後任に丸ごと引き継がれるのだという。主はあくまで業務連絡としてそれを伝えていたけれど、それは、俺たちの主が変わることを意味していた。
「後任の子は、若い女の子なんだって」
主の話はいつも突然だった。それでも、なにが言いたいのかだいたい察しがつくのは、近侍として長く一緒にいた証なんだろう。でも、今回ばかりはわかってても乗ってあげる気にはなれなくて、俺は素っ気ない返事をした。
「へぇ、そうなんだ」
「あれ、思ったより反応薄いね。そういう話題すきそうなのに」
「どういう偏見だよ!別に、そこにこだわりはないよ。ただ、あんまり若いと今後が大変そうだなーとは思うけどさ」
俺たちが築き上げた六年間。ここまでくるのも大変だったけれど、それをぜんぶ引き継ぐというのも、楽なことではないのだろう。少なくとも、これまでみたいな主と刀剣の二人三脚ではなくなるだろうな。
「そう思うなら、鯰尾が助けてあげてよ」
その発言に目を丸くすれば、主は音もなく笑った。この人は、すぐそういうことを言うのだ。
「三番目にきてくれた、この本丸の古株なんだからさ」
主は、時々ひどく薄情になる。自分で命を宿らせておきながら、未だ物言わぬ刀に話しかけるみたいに。
「……なにいってんの」
三番目も、古株も、主が変わればぜんぶ関係なくなるのにね。
でも、いいよ。俺は、主と違って律儀だから。
「言われなくても、わかってるって!」
そう言い返して、呑気なその頭をこつんと手で小突いてやった。こんな薄情な主、さっさと忘れてやるって、この時は、本気で思っていたんだ。
でも、
「この本丸の前任者が、亡くなったそうです」
その報せは突然のことだった。それを聞いて、みんなは複雑な表情を浮かべた。それはまるで、悲しみ方がわからないとでもいうような表情だった。
“前任者”が死んだと、“後任者”が言った。
それは主が審神者を引退してから、一ヶ月後の出来事だった。
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