3.ご機嫌いかが

アルバイトを始めて早2週間が経過した。
前職の飲食店のアルバイトは丁重に辞めさせていただき、学校が終わればこちらに来る生活にも徐々に慣れてきた。

初めは蛍丸一振りだった私の刀も人数が増えた。
鍛刀はあれ以来怖くて近寄っていない。いや少量ですればいいらしいんだけれど、聞くところによると刀を治すのにも資材が必要だし、皆に渡す刀装というアイテム?にも資材が必要なのでそちらのために取って置いてある。
今いる子たちは全て、合戦上で仲間になった子たちだ。

「大将、今日はどうする?」

本丸の自室で今日の編成を考えているところにやってきたのは、薬研。
蛍丸の初陣の際、彼が連れて帰ってきた私の2振目だ。
短刀ということだが、かなりの男前である。

「第一部隊は蛍丸隊長で、あとは、厚に五虎退、国俊、乱ちゃんに今剣で。」
「相変わらずの編成だなー」
「蛍丸がいたら何とかなる場所だから。流石に太刀多いところにこの編成は怖いけどね」
「俺らはどうする?」
「第二部隊で遠征お願い。薬研隊長で、博多君と、脇差の皆、国広と鯰尾、骨喰と青江で。少し遠くまで行ける?」
「できるだけ行ってみる。深追いはするな、てことだろ?」
「軽傷に1人でもなったら帰ってきてね。打刀以上がいないとやっぱり怖いから」
「苦労かけるなー大将…」
「その分夜戦で活躍してくれてるでしょ?頼りにしてるよ大将」

そう言って頭を撫でると、子ども扱いするな、と手を振り払われる。つれないなぁ。
私の今の本丸には主に短刀と脇差が沢山いる。
打刀以上は蛍丸だけな分、少しの傷も命取りになる。

「行ってくるなー大将」
「待っててね〜あるじ〜!」
「帰ったら、いっぱい、遊んでくださいねっ」
「あるじ様〜行ってきますね〜」

大所帯のピクニックみたいだ。
玄関先でお見送りしてると、短刀たちが行ってきますのぎゅーをしてくる。
それに答えて全員に熱烈なハグをするときゃっきゃとするものだからついつい行かせたくなくなる。
そして、遠巻きに見ている脇差組にも近づき、

「気をつけて行ってくるんだよ」

ハグをするには恥ずかしいお年頃?なようなので頭を撫でるだけだけど。
国広と鯰尾は笑って受けてくれるのに、青江と骨喰は嫌がって逃げてしまう。

「……毎回それするの?」
「骨喰ないつになったら撫でさせてくれるのかな?」
「永遠にこない」
「ひどいなほんと」
「僕は逆に撫でたいんだけどな」
「契約上そのような行為は許されません」
「つれないなぁ」

そんなこんなで準備完了した皆がゾロゾロ出て行くところを見守る。

私はここから出てはいけない。

それも学んだことの1つだ。
歴史修正主義者たちと私が身1つで鉢合わせた場合、確実に私は首を落とされる。
こんのすけ君から聞いた話だ。
かつて、心配した審神者が外に出て合戦上へと向かい、そのまま帰らぬ人となったと。
帰らぬ人になった場合、その刀剣たちの命も尽きる。

気がかりではあるけれど、自分の身も大事、彼らに迷惑もかけられない。
この距離感が丁度いいのだ。

己の領分で己の仕事を。

皆の姿が見えなくなったところで私はある場所へと向かった。

「小夜」

一振り。刀部屋の隅に座っている刀剣に語りかけた。

小夜左文字。

この子は少々不安定な子だ。

『誰を切ればいい?』

光を灯さない目。諦めたような面持ち。
この子はまだ合戦上に出しちゃいけないというか、これからも出しちゃいけないと感じた。

「役立たずの刀剣に何か用?」

ぶっきらぼうにそう返される。
刀帳にかいてあった小夜の出自についての記述はなんとも言えなかった。
復讐のために生まれてきたとこの子は言う。

「いつになったらあなたは僕を使ってくれるの?」
「うーん、少なくとも今出て行くと、小夜死にそうだから」
「死なないよ。僕は敵を狩り続けないといけないから」

身体じゃなくて心が、だ。
そう言いたいけれどきっとこの子にはまだわからないだろう。

よいしょと、小夜の隣に座るとぎょっとしたように身体を震わせた。
ポケットからあるものを取り出し、はい、と小夜にあげる。

「なにこれ」
「チョコレート。甘くて美味しいよ?」

本丸の自室にいろいろと持ってきたのだ。常備菓子と非常食、飲み物などなど。家にすぐ戻れるけれど、いかんせんこちらからだと門まで行かないといけないし。

「いらない」

予想通り、興味なさそうに私に突き返したけれどまぁまぁと包みを開けて口に放り込んであげた。

むぐ、とびっくりする声が聞こえたけどか気にしない。

「美味しいでしょ?」

無言で口をモゴモゴしてるけれど気に入ったようなのか、顔を背けつつも微妙に頷いた。

「私はまだやることとかあんま分かんないし、神気も強くないみたいだからさ、みんなが怪我しても治り遅いんだよね」

唐突にそんなことを話し始めると訝しげに小夜がこちらをみた。

明るく努めて皆を送り出しているけれど、本心は正直気分の良いものではない。
重症、破壊は今の所ないものの中傷軽傷だけでもかなり治すのに時間がかかっている。

「小夜は危なっかしいんだよ」
「…死にはしないよ」
「中傷だろうと軽傷だろうと気分いいものじゃないよ」
「……僕は復讐から生まれた刀だから、それしかやることなんてない」

ぎゅっと体育座りしている身体を強ばらせる。
それしか存在意義がない、という意識の刷り込み。
まるで親に捨てられた子どものようで、ぬるい現代っ子な私には到底分かり得ない感情だ。

可哀想な子、抱きしめてあげなきゃ。
残念なことに私はそういう感情に疎い。
慈悲深く、そんなことないよ?、なんて言ってあげるのが正解なのかもしれないけれど、綺麗な感覚で包容力のある行動をするほど私は真っ当な人間ではない。

「んじゃ、やることを与えましょう」

は?と小夜が顔を上げる。
それしか存在意義がないなら、それ以外のお仕事があればいい。

「小夜にはこれから、手入れの手伝い、本丸の掃除、ご飯作り、畑仕事馬の世話、色々任せるから」
「なに言ってるの?僕は戦場に、」
「ここは私の本丸だよ?」

有無を言わせる気はない。

「正しい正しくないとかそんな問題じゃないの。小夜のその気持ちもまぁあんま気にしてない。私の本丸だから私に従いなさい」
「……それが貴方の望み?」
「そう。」

小夜の気持ちを汲み取れない、だめな審神者だと思うけれど。
この諦めた表情、光を灯さない瞳。
これから合戦上にで続ければこの子の心は死ぬ。
心も死んで、その上傷を負われて帰られるなんてごめんだ。

小夜の前に正座してしっかりと小夜を見つめる。
この子の心を救いたい、そう思ってるわけではない。ただ、私はこの『平穏』な空間を保ちたいだけ。

「私は自ら傷を負うことを厭わない刀剣を合戦上に出すつもりはありません。でも、ここで何もしない刀剣もいりません。よって、働いてもらいます」
「……分かりました」

あぁ、諦めたような表情。
強引かもしれないけれど、こうでもしないと平和でいられないから。

「では、小夜」
「何?」

「一緒にご飯を作りましょう」