三好から渡された一杯の水。それを飲んだ後だ。この疼きが出てきたのは。
それが何を意味するのかぐらい分かるし、これを処理するための経験がないわけではない。
ただ、奴らの前でこの姿を見せるのもましてやどうにかするために花街に行くのも、死んでもごめんだ。

「大丈夫ですか」

自室に帰る途中、そう声をかけてきたのは彼女だった。
何が、と返すのは意味がない。きっと彼女はわかっている。

「問題ない」
「街に行かれたほうが」
「必要ないっ」

心配そうな顔をする彼女を見れば、寝着姿で髪を下ろし、鎖骨がちらりと見えている。よりにもよって。
体が熱い、思わず足がもつれた俺を彼女は慌てた様に支えた。大丈夫じゃないじゃないですか、と呆れた様な顔をする彼女はとても近くて、気づけばその唇を奪っていた。
誰が見ているかもわからないのに、この疼きを抑えるためと言い訳をして壁に彼女の体を押し付けて貪る。
最初は驚いたようにこちらを押し返していた彼女の体はだんだんとおとなしくなり、そして逆にこちらを引き寄せてきた。
漸く体が離れても、疼きはまだ収まらない。すまない、と彼女に謝ったが彼女は俺を咎めはしなかった。それどころか、

「花街に行くのが癪なら、私を使いますか」

綺麗な体ではありませんけど、と。およそ一般的な女性なら言わないことを無表情で言ってのけた。

「お前っ!何を馬鹿なことを」
「訓練の一環で経験はありますから」
「そういう問題じゃない!年頃の娘がそんな、」
「勘違いしないでください。誰にでも、なんてごめんです」

佐久間中尉なら別に構わないと言っているんです。呆れた様にそういう彼女からは、色を使って自分を惑わそうとする気配など微塵も感じられない。
なお渋る俺に再びため息をつく。

「彼らも任務のためなら平気で女を買いますよ。男に体も売ります」
「う、売るだとっ」
「ここにいる人間の貞操観念なんてそんなものですから。無意味に体は売りませんけど」
「しかし、」
「じれったいですね」

若干いら立ちを含めた声を上げた彼女は、俺に近づくと腕をつかみ、ずんずんと廊下を歩いていく。行きついた先は彼女の自室だろうか。
ちょっと待て、と急停止した俺をいとも簡単に部屋へと投げ入れた。
彼女は一瞬、部屋の外、廊下の先をじろりとにらみつけた後部屋のドアを乱暴に閉め、尻もちをついた俺にまたがった。まずい。

「千歳落ち着けっ」
「黙って」

敬語が外れ、茶交じりの黒い瞳に捉えられれば言葉を失う。相変わらずの無表情だ。
そのまま今度は荒々しく口づけされた。服越しに彼女の体温と肌の感触が伝わる。互いの唾液が入交じり、舌が交錯する音が耳に響く。

これは、だめだ。

「、っ」

ぐっ、と彼女を押し返すとその体を持ち上げ窓際のベッドへ乱暴に寝かせる。ぽかんとしている彼女に覆いかぶさりもう一度口づけをしながら、その衣服をはぎ取った。

「佐、久間中尉っ」

息苦しくなった彼女がぐっと俺の肩を押して見上げてきた、目じりに浮かぶ涙と紅潮する頬、はだけた寝着。

「悪いが、付き合ってもらう」
「…最初からそうすればと言ったでしょう」

呆れた様に笑む彼女に、すまないな、と詫びを入れ再び口づけた。


――――――



「まっ、少しだけっ」
「待てない」
「っ、や、だ」

静止の声も聞かずに佐久間中尉は再び自身の熱を私の中にゆっくりと入れてきた。これで何度目だと思っているのだろう。
最初はせいぜい2回ほどだと思っていた。三好さんたちの悪戯に巻き込まれた佐久間中尉が哀れで、日ごろの心労を労わる意味でも一度くらいは構わないと思ったから多少強引にでも熱を吐き出させる方法を選んだ。
観念した佐久間中尉が行為を始めてから、ゆうに3時間。衰えることのない体力と精力に三好さんの薬と中尉の体力を恨んだ。
男女の差をこんなところで思い知らされた。
黙々と行為を続ける佐久間中尉だけれど、時折優しく髪を撫でたり、額にキスをしてくる辺り将来彼の妻となる人物はきっと幸せになるな、と感じた。

「あ、も」

さらに言えば、意外とお上手で。花街の女相手にも乱暴などしないんだろうな、と暢気に思っていたら避けようのない快感の波がまた襲ってきた。
必死に身をよじって逃がそうとしても、わかりきっているように彼は逃がしてくれない。

「っ、!」

びくびくと体を震わせて果てれば、薄いゴム越しに彼の熱も伝わってきた。これで何回目、片手で数えることができなくなってから数えることは諦めた。

「佐久間中尉…」

流石に疲れたのか、覆いかぶさったまま荒い息をする彼の頭に手を回し少し硬い髪をすく。

(不器用な人)

体が辛いならこちらのことを考えずに抱けばいいのに。回数は重ねているのものの、その抱き方は恋人を抱くそれだ。

「ずいぶんと余裕そうだな」
「え、…あっ」

ぼう、としていたら再び彼の熱が入ってきた。この人は絶倫なんだろうか。

「悪いが、大丈夫そうなら加減はいらんな」

ん、と一瞬その言葉の意味を考える。けれど、その余裕もないくらいに激しく突き上げられて思わず息が詰まった。

「やっ!まっ」
「辛いかと思っていたがっ、このペースでも問題ないだろっ」

(大ありです!)

先ほどまでとは違い荒く突き上げられ奥へ奥へと迫られて思わず生娘のような声が出た。
体を揺さぶられ突き上げられてされるがままになっていたところで、ぴたりと佐久間中尉が止まった。
何事かと見やれば、そういえば、とこちらを見た。

「どのくらい経験があるんだ?」

雰囲気もへったくれもない人だ。けれどその言葉に固まってしまった。
経験はないわけじゃない、けれど多いわけでもない。煽るために余裕そうにふるまったけれど実際の人数としては…

「関係ないですから」

罰が悪くなりそっぽむけば佐久間中尉はにやりと笑った。

「なら、とびっきり優しくしてやる」
「なにをっ、あっ」
「どうせ、慣れてはないんだろっ?」
「っ、」

ぐりぐりと奥を探られるように突かれてまた果ててしまった。それでも佐久間中尉はやめてくれない。熱を逃がさないように何度も奥へ奥へ。

「も、ちゅういっ」
「それ、やめろ」
「っ、さくま、さんっ!」

やめてと目で訴えでもやめてもらえるわけでもなく、彼の名を読んだら満足そうに笑ってやっぱり私を逃がしてくれなかった。
この夜はいつまで続くのだろう。そう思う間もなくまた波が来て私は溺れていった。


――――――――


ミイラ取りがミイラに
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