やられた。そう千歳が思った時には既に遅かった。平静を装おうとするが、彼らから見たらバレバレだろう。ぎゅっと服の裾を掴んで悔しさに軽く唇をかむ。
まさか、本気でこんなことをしでかすとは想定外だった。

(この訓練もお願いすればよかった)

脳裏に浮かんだのは結城中佐の顔。自白剤、尋問訓練は嫌というほど受けてきたがこの訓練は結城中佐も彼女に施した経験はなかった。

(熱い、)

何食わぬ顔でジョーカーゲームを楽しんでいる彼らを注視する余裕は残念ながら今の千歳にはない。火照る体を抑えることで必死だった。
いつも通りの風景だった。そしていつも通りの行動だった。いつも通り彼らのゲームを見つつ、人数分用意した水の中で自分のものを飲んだ。水にあった多少の苦みは気になるレベルのものではなかったと自分では感じていたが、そこが誤算だった。
いつの間にか入れられていた、いや盛られていたのだ。
自分の不甲斐なさに腹立たしさを覚える。油断していた自分のミスだ。

(どこでこんなもの…自分たちで作った?)

いつの間に?どこで?そこに考えを及ばせる前に首を振る。考えても仕方ない。今はこの状況をなんとかしないといけない。
洗い物をしながらも千歳の思考はふわふわとしていた。
経験がないわけではない。しかし彼らに比べたらその数は圧倒的に少ない。

(熱が冷めるのを待とう)

くらくらする頭を必死に働かせる。ちらりと視線を彼らにやれば、口角がわずかに上がっている者、隠そうともせずににやついている者、様々だった。
ここにいるのはあまりよくない。そう感じた千歳は手早く残りの洗い物を済ませる。

(実井さん、福本さん、小田切さんは興味なさそう。入れたとしたら、ほかの人)

女癖の悪い甘利か、神永、もしくはプライドの高い三好か、はたまた涼しい顔して遊び人の田崎か。彼らの行動を思い出しつつ犯人を探るがその思考さえもままならないのが現在の彼女の体の状態だ。
水でも被りたい気分だと千歳はため息をつく。だが幸いなことに、彼らは単に彼女の様子を面白がっているだけでそれ以上のことはしそうになかった。
洗い物を終えた千歳は割烹着を脱ぐと、足早に扉へと足を進めた。取っ手に手をかけ引こうとしたその時。
ギィと扉が開いた。

「っと、すまない」

入ってきたのは佐久間だった。いつもなら外の気配なんて簡単に気づくが、朦朧とした思考でそれもままなっていなかった。

(全然なってない)

たかが盛られた程度のこの体たらく。結城中佐が見たら鼻で笑うだろう。千歳は難しい顔を浮かべ、いえ、と返した。内に湧き上がる己への小さな怒りに顔をしかめる。
早くここを立ち去ろう。そう思い、佐久間の横をすり抜けようとした時だ。
唐突に、佐久間が彼女の腕をつかんだ。

「ちょっと待て」

(それはこっちのセリフです)

一体何だと佐久間をけだるげに見る。用があるなら別の時間にしてくれと思った。

「…熱でもあるのか?」

そうだ、佐久間はこのような人間だった。千歳はそう気づき脱力した。
佐久間の目には心配そうな様子が垣間見えた。実直で軍人らしく、しかし弱きものに優しい彼のことだ。本心から心配してくれているのだろう。

「体が少しだるいだけです。寝たら治るのでお気になさらず」
「大丈夫なのか」
「大丈夫です。ではこれで」

早く部屋に行かせろ。そう言わんばかりに掴まれていた腕を払うと今度こそ千歳はその場を後にした。部屋を出る瞬間彼女が見たのは、尚心配そうな顔を浮かべる佐久間と、その光景を見て口角を上げる面々の憎たらしい顔だった。

(悪趣味な)

部屋を出た千歳は足早に自室へと向かうと、扉を開け乱暴にドアを閉めた。
火照る体を何とかしようと服を脱ぐ。ブラウス一枚だけを着てベッドに倒れこんだ。寝ることができたらベストだが残念ながら少々熱を逃がさないと当分寝付けそうにない。
しかし、彼らの思惑通りの行動をすることも気に入らない。

(治まって…)

体を折り、肩を抱き、いっそこのまま眠りに落ちてくれと願っていた時だった。


「強情ですね」


びくりと肩をならす。鍵をかけていなかった部屋に音もなく入ってきたのは、男にしては赤い唇を持った妖艶な男。

「三好さん…」
「かなり強いものを使ったんですから寝られるわけないでしょう?」

面白いおもちゃを見つけた様に笑う彼を千歳はじろりと睨み付ける。少なくともこの馬鹿げた、面白くもない茶番に彼が関わっていることはわかった。
横たえていた体をあげ、座ったまま彼に不快そうに言い放つ。

「下らない遊びをする暇があるなら街にでも出かけたらどうですか」

花街の女にでも使えと、彼女にしては珍しく苛立ちを表に出す様子に三好は心底楽しそうにくすくすと笑った。

「貴女のその顔が見られただけでもした甲斐がありましたよ」

笑みを浮かべる三好は、さて、と彼女に近づくと体をもたげた彼女を押し倒した。体に思うように力が入らず千歳はベッドに仰向けになる。

「何やってるんですか」
「手伝ってさしあげようと。責任はとらないといけませんから」
「結構です」
「本当に?」

ニヤリと口角を上げると三好は彼女の太ももを指先で撫でた。
思わぬ刺激に千歳は体をはねらせる。その反応を見てますます気をよくしたのか、その指先は彼女の秘部へと伝っていった。

「みよし、さ」
「ほらこんなに濡れてる」
「そ、こは」

くぷりと一本指が入れられ中をかき混ぜられる。膣内のざらざらした部分を何度も擦られ、千歳の体の火照りは消えるどころか高ぶりを見せていった。

「自分であまりしたこともないのでしょう?」
「っ、!」

一本から二本に増やされた指で中を擦られ、かき混ぜられ、秘部の上にある豆を摘まれれば千歳は膣内を収縮させて呆気なく達した。つい先ほど弄られたばかりなのに、ものの数分でいかされたことに千歳は羞恥心と悔しさが混じる感情を覚える。
しかし、熱は引かない。
肩で息をしながら三好を見上げれば妖艶な表情と、獲物を見つけた獣のような瞳を見ることができた。

「可愛らしい声を出すじゃないですか」

三好は、入ったままの指をある一転に擦りつけた。達したばかりの彼女には強すぎる刺激で、面白いくらいにその体がはねた。

「ひあっ、ん」
「はは、いつもの貴女とは思えないくらいだ」
「や、あっ、」

やめろと訴えることもままならず、千歳は与えられる快感に身をよじらせる。三好はそんな彼女を逃がしはしないと、再び豆を摘んだ。千歳の体がはねる。

「…三好さん」

二度もいかされ、息も絶え絶えな彼女が三好を呼んだ。

「はい」

至極楽しそうな三好を睨み付ける。が、次の瞬間彼のネクタイを掴んで引き寄せると、その唇に自分のそれを押し付けた。そのまま舌を潜り込ませれば、待ってましたと言わんばかりに三好が彼女の後頭部を抱えて咥内を犯す。
互いに離れた時には、熱を持った目をしていた。

「お願い、します」

そっぽ向きながら千歳はぶっきらぼうにそう呟いた。

「言ったでしょう、責任はとると」

彼女の腕を優しく払うと、三好はネクタイを緩めながら妖艶に笑った。


――――――――――――――――


「あっ、そこっ、やだぁ」

生娘のような声を上げて果てたのは今日で何回目だろう。
三好さんに盛られて、指だけでいかされて、火照りがどうしようもなくなって、彼を求めた。佐久間中尉が見たらなんと阿婆擦れに見えるだろうか。
求めた後、彼は待っていましたと言わんばかりに性急に入ってきた。顔の割りに彼は逞しい。そのまま奥を疲れれば呆気なくいってしまった。
ぐったりとする体を労わる間もなく彼は何度も求めてきた。本当に顔の割りに彼は逞しい。
何回目かの絶頂を迎え、彼の胸に倒れこむ。この体制は女性側も体力を使う。

「少しは疼きがとれましたか?」

労わる様に後頭部を撫でられ、彼の首筋に頭をのせる。

「誰のせいだと思っているんですか」
「僕だけじゃないですよ。主に甘利と神永、あと田崎もですね」
「ろくでもないメンバーだと覚えておきます」
「それは失礼」

互いに繋がったままなんて滑稽な話をしているんだろうと感じるが、この辺りが彼らしいのかもしれない。

「千歳さん」

名前を呼ばれて、はい、と答えるより先に感じたのは膣内に入っていた彼の熱の高まりだった。この男は。

「可愛らしい顔をされているのに、立派な殿方ですねっ」
「貴女に可愛いと言われるほど女々しくないつもりです、よっ」
「っ、」

ぐっと、体制を変えられてあおむけになる。
見上げた彼の表情はひどく美しくて、女の自分よりよほど綺麗だ。

「女性らしい貴女も魅力的だ」

そう言いながら頬に手を添えて、彼は優しく口づけをした。まるで恋人のような言葉と行為に感覚が麻痺してしまいそうで。
ただの彼らの悪戯なのに身体が満たされていく感覚が心まで来そうになる。
これではいけないと自制心を働かせた。

「その手の言葉は私に言っても仕方ないでしょう」

こんな行為が彼の本心なわけがない。私の本心なわけない。

つまらなさそうに言えば、彼はきょとんと目を瞬かせた。そして、呆れた顔をすると、

「貴女って人は」

ぬるっと私の中から彼の熱が抜かれかける。ようやく終わるのかな、と思った次の瞬間引き抜かれかけた熱を一気に奥まで捻じ込まれた。
息を整える間もなく何度も何度も激しく突かれる。

「三好さんっ、まってっ!はげしっ」

制止の声なんて聞こえないと言わんばかりに奥を突かれて果ててしまう。

そして荒々しく熱をぶつけられている中で、はた、とあることに気付いた。

(いつの間にっ)

「三好さっ、つけてな…っ!」

感覚でわかる。ダイレクトに伝わる熱。先ほどまで感じていた薄い感覚がない。
ずるりと抜かれかけた時?
流石に駄目だと目線で止めるよう訴えた、が


「だから?」
「なっ、!ひぁっ、あぅ」


それがなんだと、彼は律動を弱めることなく奥を突いたり中を抉るように揺すってきた。

どうしようと考えるより先に体の熱が高まりを見せる。結合部から響く水音が耳につく。
必死に声を押さえようとするが、そんなことは無意味だとガツガツと最奥を突かれた。

「やっ、ほんとにっ、もう」
「ここ、好きでしょう?」
「三好さんっ、ひぁ、あ」
「千歳」

名前を呼び捨てで耳元で呼ばれ、思わずきゅっと下半身に力が入れば、熱のこもった吐息が聞こえた。彼の吐息と自分のあられもない声が響く。
駄目なのに、凄く…

「三好さ、んっ」
「はっ、何ですっ」
「あ、んっ、きもちっ、いいのっ」
「!」

恋人同士のセックスはこんな感じなんだろうか.
生理的な涙を流しながら無意識にそう言ってしまっていた。でも本当に膣内に感じる彼の熱と、目の前の彼の表情、呼吸、全てがとても良くて、もう何もかもどうでもよくなっていた。
見開かれた彼の目。しかしすぐにその表情を伺う間もなく快感が押し寄せてきた。

「ひっ、あ、もう」
「いって、いいですよっ」
「っ、や、みよしさっ、んっ」

彼の名を呼んだ瞬間、頭の中が真っ白になった。少し遅れてお腹の中に彼の熱が吐き出されるのも感じた。あぁ、本当に。

お互いの熱を感じながら果て、私はするっと彼の首に回していた腕を解いた。
ぐったりと彼も疲れたのか、私の首筋へ顔を埋めてきた。今度はこちらからその頭を撫でる。

「気持ちよかったでしょう?」

顔を埋めたまま、三好さんは耳元で言った。

「それ以前に、後先考えて下さい」
「別に考えてないわけではないですよ」
「え?」
「言ったでしょう、責任は取るって」

顔を上げた三好さんはニヤリと私に笑った。

「それはこれの効果が切れるまで、」
「そんなことは一言も言ってませんからね」

すると三好さんは、入れている熱をグリグリまた動かしてきた。この人は絶倫なんだろうかと考える間もなく再び体の熱は上がる。あられもない表情を見られたくなくて、思わず顔を隠す。

「三好さっん、」
「何も考えずに、気持ち良くなればいいんですよ」
「駄目っ、これ以上したら、私は」
「千歳」

顔を隠していた手をベッドに押さえつけられれば微笑む彼の顔。けれど、妖艶で目が離せなくて。

「早く落ちて下さい」

ただの悪戯だったはずなのに、その瞳に囚われた。

今だけ、今夜だけ。

甘い思考が脳を犯して感覚を麻痺させるのをいいことに私は考えることをやめた。

これが本物でも偽物でもどちらでもいい。

「三好さん」

するりと彼の首に腕を回して囁いた。

「きて」

甘ったるい声でそう強請れば、彼は満足そうに笑みを浮かべて私にキスを落とした。


―――――――――――――


戯れと嘘と本当
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