あれに見えるは王子様
「みんなとは少し遅れて仲間になります、葛城です」
よろしく、と微笑みを称えながら言えば教室内が割れんばかりに沸く。
それもそうだ。今日この時より僕たちの仲間入りをすると言う転校生の彼の容姿は、まるでお伽噺にでも出てきそうな程に整っている。
背丈はすらりと高く、後ろで小さく纏められている艷めく髪はまるで絹の様。そして何よりも文句のつけようのない顏。
1ーA屈指のイケメンである轟くんに引けをとらないどころか、最早圧倒しているのではとすら思える。
主に芦戸さんたちは、彼を横目に女子らしくきゃあきゃあとはしゃいでいる。上鳴くんも一緒に。
確かに男でも少し心動かされかねないくらい綺麗なんだけども!
「席は麗日の後ろだ。麗日、手ェ挙げろ」
声にならない悲鳴を小さくあげたのちに、おずおずといった風に挙手をした麗日さん。
そんな彼女に向けてまたニコリと笑顔を差し向けて(その時また嬌声ともとれる歓声が沸く)彼は、嬉しいな、こんな可愛い子が一番近い席だなんて。と言った。
一拍、水を打ったように静まり返った教室であったが、すぐさま本日一番であろう歓声が響き渡った。
「せんせー!転校生への質問タイムとかってないんですかー!」
芦戸さんの言葉に、先生は少しばかり考える素振りを見せたが、時計と僕たちを一瞥し、一息ため息をつく。
「特異な時期の転校という事もあり、皆一様に気になる点も多くあるだろう。時間も少しばかり余っている。」
終わりに、あまり騒ぐなよ。とそう言い放つといつもの様にどこからか取り出した寝袋に包まる相澤先生。
つまり…?ということは…?
残り時間凡そ15分足らずは彼に何をしても(?)良いということだ!!
どっと彼に押し寄せる質問たちの中から、彼がまず答えたのは葉隠さんの「恋人はいるのか」という質問。
「いないよ。でも君とそうなれるとしたら、俺は幸せだな」
最早キャアというよりギャアみたいな悲鳴が周りを包む。
下手な人が言えば場が凍るような台詞だと言うのに、そうならないのはひとえにあの顔面偏差値のおかげか。
後ろの席の峰田くんはやっぱり顔か、顔さえよければ何言ってもいいんかと、呪詛のように呟きながら血涙を流している。怖い。
それにしても見れば見る程整っているのが痛い位に分かる。薄く笑う唇も少しもかさついていることは無く、声すら格好いいと来た。
次々に投げ掛けられる質問に滞ることなく答えてゆく彼には、容姿において欠点という欠点はないように見える。
「葛城の個性ってなんだ?こんな時期に転校ってのも気になるぜ」
確かに!難関校である雄英高校のこれまた難関科であるヒーロー科への転入だ。
普通ならば真っ先に出るはずの質問がこんなにも遅れているとは。そしてよく分からない時期の途中編入。
この雄英への編入とは、恐らくまったくの異例なのではないだろうか。
前の学校で入学して間もなく問題を起こしたのか、よっぽどヒーロー向きの個性で、雄英からのヘッドハンティングなのか。
皆が固唾を飲んで見守るなかで彼は口を開く。
「そんな強ばることか?まあ確かに変な時期の転校だしね。気持ちは分かるよ。
俺の個性は『テレポート』自分も飛べるし、制限はあるけど物も飛ばせる。
けど、あまりに質量の大きいものや、人間はそれら単体では飛ばせない。」
苦笑しながら答えた彼は、もうひとつ、と言葉を繋げた。
「あとね、俺が転校した原因の一端のもうひとつの個性」
ざわつく面々に引き続き紡ぐ。
転校とまでなる程に危ない個性なのだろうか。始めからずっと眩かった笑顔から一転して、にやりと妖艶な笑みを浮かべた彼に、どこか空恐ろしさを感じ得てやまない。
「…なんてな。んな怖いもんじゃねえよ。『性転換』だ。
一回転換すると3日は戻れないから、そこだけ不便かも。」
からからと笑いながら話す彼に、詰めていた息をどっと吐き出す僕たち。
今の今まで珍しくつっかからずいたかっちゃんが、揶揄われた事が分かるとあからさまにイライラを全面に押し出した。
「そんなに怒るなよ、赤い目のかわいこちゃん。
原因は性転換に伴うオマケだよ。なんかほんとオマケ程度に、付加個性っていうの?
『魅了』ってののせいなんだ。」
彼曰く、効力は対象によってまちまちらしく、効きやすい人と効きにくい人がいるらしい。
それは常に発動していて、男だから効かないだとか、女だから効きやすいだとかは特に関係ない模様。
もしかして、はじめに上鳴くんがきゃわきゃわしていたのは同姓でも効きやすい方の人だったからか。
そして前の学校では、その「効きやすい人」がどうしてか殆どで、教師生徒入り乱れの個性使用なんでもござれの乱闘騒ぎにまで発展してしまったそう。
それから校長がたまたま根津校長と旧知だったという事と、たまたまヒーロー向きの個性も併せ持っていた事が重なって、自分で使いこなせるようにと雄英に転入手続きがなされた、と。
…なんともコミックのような、なんとも言えない理由に思わず閉口してしまう。
まあ、ある意味では危険な個性であることがわかった。ある意味のその意味になんだか心がもやつくのは気のせいだと思いたい。
しかし、強個性のテレポート持ちだとは。汎用性も高く、最前線でも立ち回り方次第ではとても強い個性だ。
だから単体でももちろんだし、サポート役でも、テレポーターがいることで間違いなく連携が取りやすくなるはず。
自分以外のものをそれだけで飛ばせるっていう点においても…
そして効果は効き易い効き難いがあるにせよ、魅了の個性も敵に効いたならばとても戦力になる。
その場凌ぎになるけれど、性別だって変えてしまえば逃げる事にも役にたつはずだ。
「ふは、そこの緑の君、すごいね。嬉しいよそんなに考えてくれるなんてさ」
くすくすと笑う声にはっとする。彼に注視され思わず顔に熱が集まってきた。
前の席でかっちゃんは大きく舌を打った。怖い。
ぼちぼち時間も良い頃となり質問も落ち着いてきたところで相澤先生が起き上がった。次の授業の事をさっと伝えると、丁度良く終わりを告げる鐘が鳴る。
入学してこれまで、常に驚かされたりはらはらする事の割りと多いこの雄英高校ヒーロー科1ーAに、新しく加わった彼──葛城 樹くん。
この短い期間で既に何度も会敵している僕たちと、今まで普通の高校に通っていた彼とで、もしかしたらすれ違いが今後起きるかもしれない。でも、それでも彼とは仲良くして行きたいと思える。僕ももしかしたら個性、効いちゃっているのかなあ。
改めてよろしく、とまたあの王子様スマイルを浮かべて、次の授業に備えるべく真新しい自席へ向かって行った。