可愛いって、この世の摂理だと思う。それかこの世の真理。
猫がにゃーにゃー鳴きながらこちらへの足に体を擦り寄らせてくれる姿は愛らしくて可愛いし、桜の花は薄桃色で可愛い。
年上の幼馴染が誕生日プレゼントにくれた赤いリボンも可愛いし、好物のフルーツ大福も小さくて可愛い。
可愛いがあるだけで世界は色付くし、逆に可愛いが無い世界なんて目玉焼きの白身の部分がなくなっているようなものだと思う。
性別が男だろうと、可愛いものは好きだし身に纏いたい。だってボク、可愛いものが大大大好きだから。
男なのに可愛いものが好きなんて。そういう人もいたにはいたけれど、幸いなことにボクは環境に恵まれていたのでひとりぼっちになることはなかった。
むしろ普通に受け入れられているし、そういう意味では多分否定されたことがない。ボクのことをそんなに知らない人達は白い目で見ることもあるけど——正直ボクとそんなに関わりがないくせに勝手に決めつけるような人なんかどうでもいいので気にしていない。だから否定されたことは実質ないようなもんだと思う。
知らない人から白い目で見られた=白い目で見られたとはならないと思っているので、そういうのは数に入れていない。入れたらキリがないからと言うのもほんのちょっぴり理由にあるけど。
まあ、ボクってば可愛いので可愛いものを身に付けても全然おかしくないしね。知らない人のためにボクの好きなものを抑えたり無理やり変えたりする必要なんでどこにもないし。
可愛いコスメも好きだしメイクも好き。小さな子も可愛いし大きな人でもギャップがあれば可愛いから好き。かと言って可愛くないものや人が嫌いなわけではない。
かっこいいに部類される知り合いのことも普通に好きだし、綺麗に部類される知り合いのことも好き。綺麗なものもかっこいいものも人並みには好きだし、全部ひっくるめて特に好きなのが「可愛いもの」ってだけだ。
ちなみにボクには憧れの人がいるけど、その人は可愛くてかっこよくて綺麗な人だったりする。
数年前の
きーちゃん先輩ってば、すっごいんだ。ボクを助けてくれたあの日、襲ってきていた近界民を一撃で倒したし、その後もボクを安全なところに連れて行ってくれている間ずっと一撃で倒していたんだ。
大きな鎌を使ったり、小さな鎌を使ったりして、そうしてバンバン倒しながらボクを安全なところに連れて行ってくれるきーちゃん先輩の姿は、それはそれはもうかっこいいとしか言い表せないと思う。
近界民を倒す時、動いて揺れる短い髪はとっても綺麗に見えたし、ボクを安心させるために笑いかけてくれたあの表情はとってもとっても可愛かった。
「あたしが来たからもう大丈夫よ!」
そう言って笑ってくれたきーちゃん先輩は、その日からボクのかっこよくて可愛くて綺麗な唯一無二のヒーローになったんだ。
きーちゃん先輩みたいにかっこよくて可愛いヒーローになりたい。そう思ったボクはボーダーに入ることに決めた。……そりゃあ、初めは唯一の家族のおばあちゃんにすっっっごく反対されたけど。なんなら幼馴染のみつ兄にまで反対されちゃったけど。
でもでも、沢山沢山説得して何とか入れることになったんだ。色んな約束事はできたけど、でもボーダーに入れたから全然いいと思う。毎日すごく楽しいし。
それから、食堂がすごく美味しいし。
「ん〜! おいしい〜!」
「相変わらず美味しそうに食べるよね、雫」
「だって美味しいもん!」
一口一口を口に入れていく度、口の中に広がっていく美味しさに顔が綻ぶ。ボクのおばあちゃんの料理も美味しいけれど、ここの食堂の料理もそれに負けず劣らずとても美味しい。お肉は……あんまり食べないけど。ボクはお肉よりもどちらかと言えば野菜が好きなので、仕方ないと思う。
よくボクの面倒を見てくれる人達はそれが少し不満らしくて、「もっと肉を食べろ」って言ってきたりするけどね。
特に
ハーさんもコーさんも、ボクが野菜メインの料理を食べている時に遭遇したら一緒に焼肉へと行く予定を強制で立てるのだ。ボクはお肉よりも野菜派だって言っているというのに。
別に嫌な気はしないけどね。だって二人共ボクのことが嫌いだからそうしてるんじゃないし、可愛がってくれてるからそうしてくれてるだけだし。
……ただ、たまには焼肉じゃなくてケーキバイキングに行きたいな。一度そう言ったら割とマジの顔で断られてしまった。その後ハーさんが話してくれたのか、
可愛いもので溢れている店に可愛い人と綺麗な人と行くの、とっても楽しかったな。ケーキの写真を全部みつ兄とコーさんに送っていたんだけど、コーさんってば[写真だけで胃もたれするからやめろ]って返してきたんだよ。ムッとしたから大量に送ってあげた。それを見ていたのぞちゃんは楽しそうに笑ってた。
美人さんって笑っても綺麗なんだよ。凄いよねぇ。
ちなみに、みつ兄は[美味しそうだね、誰かと来ているの?]って返してくれた。コーさんもみつ兄のそういうところ見習えばいいのに。……でもそれだとコーさんの良さが消えちゃうからやっぱりいいや。
「にしても……野菜炒め、それもお肉少なめって。これ諏訪さん達に見付かったらまた焼肉屋じゃないの〜?」
いつぞやのケーキバイキングの時のことを思い出しながら、お肉少なめの野菜炒めをもぐもぐと食べていれば、向かいの席に座っていたケンちゃん先輩から苦笑交じりにそう言われた。
みつ兄は何となく分かっていたのか、ボクがお肉少なめの野菜炒めを乗せたお盆を持って席に着いた時に
「お肉食べてるからセーフだよ」
「いやいやいや、それもうほぼ野菜だからね? どれだけ減らしてもらったの?」
「……あ、お米もあるんだった〜。タベナイトナ〜」
ケンちゃん先輩の質問にスっと目を逸らし、パクリと白米を口に入れた。
言えない。ボクがあまりにもお肉減らした野菜炒めを頼むからって、食堂で働いているお姉さんがボク用の野菜炒めのメニューを作ってくれてるなんて。お姉さんに「ナイショね?」って約束してもらってまでボクはその特別メニュー(という名のお肉少なめ野菜多めの料理達)を注文して食べているというのに(ちなみに表向きには他の人達と変わらないメニュー名で頼んでいる)、今ここでケンちゃん先輩に言ったら絶対にハーさんにまでバレてしまう。
あ、ちなみに食堂で働いているのはお姉さん一人ではないので、食堂で働いている人はみんな知っていたりするけどね。
でもケンちゃん先輩に教えたらぜーったいハーさん達に伝わってしまう。ナイショねって言ったら守ってくれるけど、ハーさん達にカマかけられてバレちゃうのがオチなのだ。
ハーさんもケンちゃん先輩も同じ
「なんでもいいけどさ、雫」
「ん?」
「さっき後ろの席に座った人、見えてた?」
「……へ?」
瞬間、軽い力でポン、とボクの肩に手が乗せられた。
「ほ〜う? その話、よぉく聞かせてほしいものだな。雫?」
「ピッ」
ゆっくりと声が聞こえた方へと顔を向ければ、そこにはとてもとてもいい笑顔を浮かべたハーさんとコーさんがいた。
「ハハハ……こんにちは。ハーさん、コーさん」
「時枝ぁ、雫のやついつ空いてるよ?」
「今日の夜フリーですね。ちなみにオレたちは任務なので、遅くなるならちゃんと家まで送ってあげてくださいね」
「みつ兄!?」
なんということだ。さっきは何も言わないでくれたのに、今はハーさん達に肩入れをしているではないか。驚きのあまり思わず大きな声を出して立ち上がってしまった。そんなボクの反応なんてもう分かっていたかのように、ハーさん達は会話を進めていく。……鬼?
「お〜、任せろ」
「雫のところのお婆さんとも久しぶりに話をしたいしな」
「ぼ、ボク沢山食べれないです!」
「加古にケーキバイキングの時かなり食べてたって聞いたぞ」
「甘いものは別腹だもん!」
乙女になんてことを。物理的な性別は男でも、心は女の子みたいなところもあるんだぞ。全くもう。
ちなみにこの後みんなてランク戦のログを見たし、その後ハーさんとコーさんと一緒に焼肉に連れて行かれた。
ヤミツキきゅうりだけを食べて帰ろうとしたけど当たり前にお肉を食べさせられた。しばらくお肉見たくないやい。