03:偉い人


 どうやらおれは、ボーダー本部の偉い人の元で色々と話をしなければいけないらしい。
 しゅーじが所属する隊の隊長の人から、そんなことを聞いたのが約二十分ほど前のこと。

 おれは今、ボーダーの本部の中でも物理的に高いところにある、広い部屋の入口の近くの席の隣に立って、約九人の人からの視線をヒシヒシと受けていた。

「——それで雲竜くんは、今まで何度も警戒区域内で近界民に追われていた、と?」
「……はい、そうです」

 そう頷けば、おれに質問をしてきた人(よくテレビで見るボーダーの偉い人だ)は分かりやすく大きくため息をこぼした。この人も苦労してるんだなぁ。今はおれに関してのことだけど。

「その割には今までバレてなかったようだが? 嘘をついてるんじゃないのかね」

 体の大きな偉い人が、少し乱雑な口調でそう言った。まぁそう言われるだろうな、ボーダーって凄いところらしいし。おれみたいな一般人が見つからないわけもないだろうし。というか普通に一人の人には見つかってたし。あのお兄さん、おれのこと話してなかったんだな、そうじゃなきゃ今こうはなってないし、そういうことなんだろう。
 何を考えておれのことを話していないのかなんて、知らないけど。

「最悪の場合、死ぬかもしれないのに……そんなリスクを背負ってまで、おれは嘘をつきませんよ」

 おれの言葉に、体が大きい偉い人はたじろぐことも無く「ふん、どーだかな」と返す。信用、当たり前だけどされていないなぁ。何となくそうなることは分かっていたので今更傷ついたりはしないけど。

 だっておれは嘘をついていない。今言ったように、別に死にたくてあそこにいるわけでも近界民から逃げているわけでもないのだ。理由は分からないけど追いかけられるから、他の人を巻き込んではいけないから。そう考えているから、警戒区域の中に入ったりして逃げているだけのこと。

 そんなこと、ボーダーの偉い人達からしたら知ったことではないんだろうけど。
 現に、偉い人達のおれを見る目は冷たいままだ。……あ、でも、二人くらいはそんな目で見てないなぁ。どっちも名前、知らないけど。

「まぁまぁ。彼がただの民間人だということは分かってますし、そんなに責めなくてもいいんじゃないですかね?」
林藤りんどう支部長」

 なるほど、おれに冷たい目を向けていない二人のうちの一人である、眼鏡をかけた偉い人は林藤支部長というらしい。彼はおれを含めた九人からの視線を受けてもなんともないように笑って、そしてまた口を開いた。

「近界民に追いかけられてたのだって、トリオン量が多いと考えた方がいいし……いっその事ここはもう、彼をボーダーに入れたらどうですかね?」
「!」

 林藤さんの言葉に、みんなが大きく目を見開いた。一番偉い人は、よく分かんないけど。多分見開いていたと思う。
 かくいうおれは、"とりおんりょう"というものがよく分からなくてただ首を傾げることしかできなかった。"とりおんりょう"って、なんだろう。近界民が追いかけてきていたのも、それが原因なんだろうか。林藤さんの言い方的に、恐らくそうなんだろうけど……だとしたらどうして、ボーダーに入ることを提案したんだろう。

「彼の言い分が本当だとしたら、頻繁に近界民に追いかけられるくらいトリオン量が豊富だということになる。そんな人材、滅多に居ないでしょうよ。ね、鬼怒田きぬたさん」
「うぬぅ……確かに、それはそうだ」

 聞きなれない単語を含んだまま、会話は進んでいく。林藤さんの意見はボーダーの偉い人達からしたらかなり筋の通ったものらしく、反対の意見が出る様子はない。
 一番偉い人(まだ分からないけど、多分顔に傷がある人がそうだと思う。なんとなくでしかないけど)も、林藤さんの意見には特に反対する気は無いのか、ただ静かにおれを見ているだけだ。

「私としてもその意見には賛成だが、雲竜くんの意思も重要だろう。雲竜くん、きみはどうしたい?」

 ずっと黙っていた偉い人(林藤さんと同じく、おれに対して冷たい目を向けていなかった人だ)が、圧のない声でそう訊ねてくる。
 また、みんなの視線がおれへと向いた。

「おれ、は」

 ボーダーに入ったら、近界民とある意味近い立ち位置で生きなければいけないんだろう。
 それは、おれは耐えられるのだろうか。

「……お、おれは」

 しゅーじのように、戦うことが、出来るのだろうか。……"ソレら"は、どんな時でも見えているのに?

「…………ッお」
「——彼を入隊させるのは、やめたほうがいいと思いますよ」

 ポン、とおれの肩に手が乗せられた。背後から聞き覚えのある声が聞こえて、思わず息を飲んだ。

「……迅か。今は会議中だが」
「いや〜、このままだとちょっとばかしヤバい未来になるのが見えちゃったんでね。止めないと、と思って」
「やばそうな?」
「はい。端的に言うと、彼がボーダーに入隊すると——100%死にます」

 ぴしりと、部屋の空気が凍った気がした。



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