side story:Kuroba Kaito
グツグツと音を鳴らしているカレーチーズドリアを前に、思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
この人——翼兄さんの料理は何でもかんでも美味しいから、ぜっっっったいこの料理も美味しいに決まっているのは分かっているけど、やっぱり見た目も堪能はしたいのでじっくり見た目を眺める。
オレの幼馴染である青子の料理ももちろん美味しいけど、翼兄さんの料理もさすがプロをめざしているということだけあって美味しいのだ。今でも時々思う。この人の料理を食べられるオレは幸運なんだろうなって。
……ま、出会ったきっかけとか交流を始めたきっかけは胸糞悪いものが原因だったけどな。
でも翼兄さんがいなかったら間違いなく親父は死んでいただろうし、今こうして彼の料理を食べることもなかったんだろうなと思うと、あのきっかけはある意味運命みたいなものだったのかもしれない。
翼兄さんは、見習い料理人だ。実家が料亭らしく、料理を作る両親の姿を見て育ったからか自分もその道に進みたいと思ったのだと、前に教えてくれた。
そんな翼兄さんとオレ——というより黒羽家が交流を持つようになったのは、オレが9歳の時に起きたある事件がきっかけだった。
親父のマジックショーを見に行っていた時、とあるマジックで親父が死にかけたのだ。翼兄さんがいなかったらきっと、いや確実に親父は死んでいた。それほどまでの事件だったんだ。
あの時、翼兄さんが「あれ、本当に焦ってない?」と翼兄さんの両親に言わなければ——そしてそれをスタッフに伝えてくれなかったら——親父は絶対に死んでいた。誰かが意図的に失敗して死ぬように、マジックショーで使う道具に細工されていたからだ。
親父も母さんも翼兄さん達にお礼を沢山言っていた。だけど翼兄さん達はなんでもないように「無事で何よりです」って言ってたし、普通では無い事情を察して定期的にオレの家でオレに料理を振舞うという提案もしてくれた。
「うち、個人経営の料亭だし、あとお客様も一日数組のほぼ貸切状態で営んでるから、そういう話も聞こえたりするんだよね」とは、翼兄さんの言葉だ。
……ま、実はそれだけじゃなくてあの家自体事件に巻き込まれやすかったりするからその分察しが良くなってしまった、なんて言う理由があったんだけどその時のオレや両親は気付くことは無かった。気づいたというより察したのはそれから一年が経った時だった。
翼兄さんの見た目は、まあざっくり言うとチャラい。チャラいと言うか派手。ピアスすげぇ開けてるし、その髪型や雰囲気から女遊びしそうとか、そう思われがちな容姿をしている。本人もその自覚はあるのか否定しないし、むしろ自分から「俺、チャラそうっしょ?」と言ってきたりもする。
だけど中身は全くそんなんじゃない。むしろ逆だ。真面目だし、女遊びも全然しない。というかそういう浮いた話は聞いたことがない。隠してるだけかとも思ったけど、そうなると翼兄さんの両親が何かしらオレの両親に言ってそうなのでその線もない。
ま、本人は今は料理一筋らしいしそういう話自体考えてもいないんだと思う。
ほんと、あの見た目からは想像が付かねぇくらい料理好きな人だからなぁ。
翼兄さんらしいって言えばらしい。
閑話休題。
何度でも言えることだが、翼兄さんの料理はすげぇ美味い。今日の料理だって、見た目からして美味そうだ。
スプーンで一口分掬って、口に入れる。
その瞬間に広がるのは、カレー特有の風味と濃厚なチーズの風味のコンビ達だ。青子が作ったカレーのコクと、チーズ達のバランスが良すぎてたまらない。
しかもこのチーズ達、一種類じゃなくて三種類くらい使われているからか普通のよりも濃厚なチーズの風味があってとてつもなく美味しい。カレーとチーズってこんなにも合うのか。もっと早く知りたかった。
今度青子のやつにも教えてやろう。きっと喜ぶ。
青子の家は父子家庭だから、多忙な父親の代わりに青子が料理を作っている。アイツの料理も美味しいんだよな。きっとこの先もっと美味しくなるだろう。
「——今度、幼馴染ちゃんにも料理を提供するんで、みんなでご飯、食べましょ」
「!」
青子のことを考えていたのがバレたんだろうか。翼兄さんは優しく微笑みながら、そう言った。翼兄さん、こういう時の察しの良さはピカイチだと思う。時々ズレてるけど。
「みんなで食べた方が、ご飯は美味しいっす。それに……俺も君の幼馴染ちゃんの手料理には興味があるんで。あ、もちろん恋愛的な意味では大丈夫っすよ。人の恋路を邪魔するほど性格歪んでないんで」
「!? ふぁっはふへひっふぇふふぁ!?」
「あれ、気付いてなかったんです? 君が幼馴染ちゃんの事を話す時、好きな人のこと話している顔してたっすけど」
……察し良すぎて怖いわ。そんなに分かりやすいかよ、オレ。つか翼兄さんが青子に手ぇ出したら犯罪だろうが。絶対ねぇだろ。
——ちなみにこの数年後、オレと同じクラスになったどこぞの探偵野郎の胃袋もちゃっかり掴んだ翼兄さんを見て、「翼兄さんはまだやらねぇから!!」なんてことを言う羽目になるとは、今のオレにはまだ知る由もないことである。
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