01:And so fate is set in motion.


 人は誰しも、産まれた環境に恵まれている訳では無い。それは両親達や己の兄弟や親族といったいわゆる人間環境的なものだったり、将来的に自分が働きたいと思っている夢に向かって走りやすい、または夢のための経験を一足先につむことができるような——まあ簡単に言えば産まれた家が動物病院とか個人で営んでいる飲食店だったりするものの——そんな環境のことである。

 例えばそう、後者に関しては動物病院で働く獣医になりたかった子供の実家が動物病院であれば幼い頃からそういった経験は何かしら積むことができるだろうし、別にそれは動物病院に限った話ではない。料理人になりたい子供が料理人の家に産まれた場合でも、パティシエールやパティシエになりたい子供がそれらの職に就いている両親のもとに産まれた場合でも、それは当てはまることだ。

 そして俺は、自分で言うのもなんだけど結構そういった環境に恵まれて生まれた人間だと思っている。
 例として前者にあげた両親や親戚しかり、後者にあげた経験が積みやすいこと然り、だ。
 両親は料理人で、夫婦二人で料亭を営んでおり、俺はそんな二人のことを幼い頃から見ていたからか自然と料理人になるという夢が出来てきた。
 料理ができて損は無いから、という理由から両親にはそれらの知識を与えられてきたし、俺の夢を知ってからは料亭のあれこれも叩き込んでもらっていた。
 だから他の人よりもスタートが早かった分俺の年齢の料理人はそこまで知らないであろうことも俺は知っているし身に付けてもいる。
 まさに料理人になる人間としてこれ以上ないほどに恵まれている環境に産まれ、育ってきたのだ。これを恵まれた環境と言わずしてどう言うのか。

 そんな俺だが、実は墓場まで黙って持っていくような事情を秘めていたりする。というかこれを他者に話したところて信じてもらえるとは思っていないので半強制的に墓場まで持っていくと言うだけなんだけれども。
 別に超能力が使えるとかそんな大層なものではない。断じて違う。

 じゃあなにか? それはまぁ……結構シンプルで、俺は普通の人より記憶が多いのだ。というかもう一人の人生の記憶がまるまる頭の中に入っている。初めから終わりまで、全部だ。その記憶は簡単に言うと前世の記憶である。誰のかは……ちょっとよく分からないけれど。
 俺の前世の記憶なのかもしれないし、そもそも別の人間の一つの人生を持って生まれてきただけかもしれない。そこら辺はちょっとよく分かっていないのであまり断言できはしない。

 いやだって、そうだろう。たしかにもう一人の人生のその記憶は結構しっくり来ているけど、勘違いの可能性もある。もしかしたら全く別の人間の記憶がただ俺に与えられただけなのかもしれないし、簡単に「自分の前世の記憶!」とは言えない。
 普通なら自分の前世の記憶と認識するんだろうけど、生憎俺は変なところで慎重というか疑り深いので受け取り方が他と全く違うのである。

 おっと、話が逸れた。
 先に述べたように、俺にはどこかの誰かの人生の記憶がある。簡単に表すと"前世の記憶"であるその中には、今俺が生きている世界が数多くある作品の物語の一つとして存在していた。
 毎年春になれば劇場版が公開され、漫画も確か単行本は百巻を突破していたし、アニメも毎週土曜日に放送されていた。老若男女問わず人気だし、見たことはなくともその作品名くらいは大体の人は知っている——それくらい人気の作品であった物語の名前は、"名探偵コナン"。

 もう一人の人生の記憶の主は、どうやらその作品が大好きだったらしい。情報に差はあれど"名探偵コナン"の作品についてかなりの情報が記憶されていた。主に、どこで誰が死ぬのか・いつ頃死ぬのか・キャラ達の関係性・本編開始後誰が死ぬのか・怪しそうなキャラが結構細かく記憶されていた。
 そして恐らくもう一人の人生の記憶の主(もう長いので以後は簡潔にかげと呼ぶことにしよう。由来とかは特にない。)の推しは浅井成実あさいなるみ改め麻生成実あそうせいじか、松田陣平まつだじんぺいか、萩原研二はぎわらけんじだ。
 なんか妙にこの三人の情報だけがしっかり記憶されている。いや、他のキャラクター達の情報の記憶(特に死んだキャラクター)もあるんだけれど、特にしっかりあるのがその三人なのだ。恐らく推しなんだと思う。

 ちなみにその次にはっきりしてるのがスコッチ改め諸伏景光もろふしひろみつである。このキャラクターに関してはおそらく死んだ場面が衝撃的なんだったと思う。
 あと伊達航だてわたる。恐らく彼に関してはその後の地獄のループのような出来事たちが印象的だったのだろう。彼の死後の一連の出来事たちが結構しっかり記憶されている。

 まあ、つまりなんだ。影は恐らく死んだキャラクター達が好きだったのだろう。もしくはそういうキャラが推しになりやすいか、そういう出来事が頭に残りやすいか、まあそんな感じだとは思う。そうじゃなきゃ普通の事件の出来事よりも死んだキャラクターたちの出来事のほうがしっかり記憶されている、なんてことはないと思うから。

 閑話休題。

 今の俺が住んでいるのは米花町べいかちょう。つまるところ、江戸川コナン物語の主人公達が住んでいる街である。ちなみにこの世界が"名探偵コナン"だと気付いたのはやけに事件が多かったのと、6歳位の時に主人公の母である工藤有希子くどうゆきこが女優を引退したからだ。
 他人の空似かと思ったけど、父曰く彼女の旦那は推理小説家の工藤優作くどうゆうさくらしいので確信した。

 いやはや、道理で事件は多いわ爆弾よくあるわ爆発もよくあるわと思ったわ。普通に物騒だし危ないし物騒だしよく両親はこの街から出ていないなと何度思ったことか。聞けば何かと事件にも巻き込まれやすいらしいが無傷でいるんだとか。あの両親はきっと生命力が高いんだと思う。

 これは余談だけど、俺がこの世界は"名探偵コナンの世界"だと気付いた時の目は死んでいたらしい。別にこの世界がどうとかは両親に言っていないけど気づいたのが工藤有希子の夫は工藤優作だということを聞いてからだったので、まああながち間違っていないと思う。
 
 はてさて、6歳位の時にこの世界は"名探偵コナン"の世界だと気づいた俺だけど、キャラクター達と関わりたいとかいう欲は特になく——というか死にたくないのでそれ系には関わりたくないというのが本音だけど——実家が料亭だったこともあり料理に触れる機会は他の人よりも多かったこともあり、料理人を志し、そして料理人見習い(16歳高校生)として今を生きていた。

 今は実家で見習いとして日々を過ごしている。個人で営んでいる料亭ということや、幼い頃からその世界に触れていたことから、他の同年代の人達よりかは下っ端の仕事をしていないから、周りからは「経験が豊富な料理人の卵」と呼ばれたりしている。

 ……まぁ俺の実家は料亭だし、結構お高いところだからかなんか凄い人がよくお客様としてお見えになったりはするんだけれども。
 警察のお偉いさんがお見えになることもあればどっかの社長さんがお見えになることもある。
 そのせいかは知らないけど、店でも普通に事件が起きる。悲しいけどご飯に毒物を混入するなんてよくある。幸い死者は出てないけど、恐らく何割かは三途の川を渡りかけている。

 美味しい料理に毒物を混ぜるな。道徳を学ばなかったのか。倫理観どうなってんだよ。高いんだぞうちの料理は。恐らくいえばキリがない。

 お祓いも行ったはずなのに、その翌日には事件が起きていた。殺人未遂で良かったと切実に思ったけど、おそらく実家はかなりやばいのに呪われているんじゃないだろうか。
 ま、未遂だったり死者が出ないのは恐らくというかほぼ確実にうちの両親がそういった知識があるからだし、うちの店の近くに警視庁があるからだと思う。……そういうことを踏まえた上で普通に考えたら、防犯的には治安がいいはずなんだけどなぁ。おかしいな。

 おかげさまで、両親のスマホだけでなく俺のスマホにも警察の関係者の連絡先が入っているし、あの有名な工藤優作の連絡先も入っている。
 ちなみに、前者後者ともに実家以外でも事件に巻き込まれたりしている俺を哀れんだ結果だったりする。
 両親もだが俺も事件に巻き込まれやすいのだ。おそらく血筋だが、そんな血は受け継がなくてもよかったと思う。現実は非常である。

 そんな俺だが、今絶賛現実逃避中だったりする。
 というのも、一人暮らしを始めてはや数ヶ月が経とうとしている今日この頃。献立開発に勤しんでいた俺は休憩がてら近くのコンビニに行くために家を出たら——爆弾解体が始まっていた 防護服来た人達がフロアに大量にいた

 ……いや、なんで?




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