02:being lucky in a way


「なっ、なんでここに民間人が!? 避難勧告は済んだはずじゃ!?」
「……あ〜、すみません。普通に献立開発に集中してました。ていうかなんでお兄さんは他の人みたいに防護服着てないんスか? 実はこれコスプレ大会だったりします?」

 訂正訂正。防護服着てない人いるしその人タバコ吸ってるし明らか一息ついている場面みたいだったから、爆弾解体は一段落付いている——というより多分マンション内の住民の避難待ちらしい。ま、今ここにマンションの住民いるんですけどね。タバコ入れる袋ちょっと見えてるからおそらくついさっき避難完了の連絡が来たんだろう。気の毒に、まだここにいたわ。

 影のおかげで記憶はある。しかも影はおそらく萩原研二も推しの一人だったので結構はっきりとした記憶がある。だから分かるのだ。
 このままだとこの人は死ぬ——そしてなんなら今ここにいる俺も死ぬ——と。

 正直な話をすると、この人の死に関しては警察の連携どうなってんだよ案件だと思うし不運な死に方をした一人だとも思っている。
 よく防護服着ずにやっていたから自業自得だとか思われていたキャラクターなのだと、影の記憶にはあるけれど、あれは警察側の連携が上手く取れていなかったのも原因だと俺は思っているからだ。
 いやだって、考えてみてほしい。あの防護服すっげぇ重たいらしいしなんなら一人で脱ぎ着できるものでもないらしいんだぞ。中も暑いらしいしそれだけ重たいならいくら体を鍛えていたところで長時間耐久できるかどうかも怪しいだろう。

 しかもあの時、確かこの件の犯人達と警察とは交渉が成立していて解体作業を急ぐものでもなかったはずだ。だから安全を考えてマンションの住民の避難が住んだ後に解体作業をする、という感じだった(はず)。あくまで影の記憶が正しければ、だけど。

 マンションの住民の避難が完了するまでは、まあ当たり前かもだけど爆弾解体なんか出来るはずもないだろう。万が一のことがあった時が恐ろしい。だから、あの場合は萩原研二の自業自得というより警察側の連携が上手く取れていなかったことに原因があるようなものだと思うんだよなぁ。
 ……まぁ、避難完了の連絡が来た後にも防護服とかを特に着ることなく作業をしていた場面の記憶もあるので、それに関してはちょっとダメな気もするけどな。

 トラブルの末に二人組の犯人の片方は死に、そしてもう片方は警察を恨み遠隔式の爆弾を爆破。そして確か、それを松田陣平と萩原研二達は知らなかった。というか伝わっていなかったんじゃないだろうか。そのトラブルが伝わってさえいれば、おそらくあの事件の結末は変わっていただろう。影の記憶によれば警察学校組と呼ばれる彼らは頭がみんな良いらしいので、トラブルの末逆上した犯人がどんな行動に移すかなんて容易く想像できるだろうからな。

 というか正直、防護服着たところでワンフロア吹き飛ぶくらいの爆発っぽかったから生きているかも怪しい気もするけど、そこら辺はあくまで物語だし突っ込むのもアレだろう。

 あくまであの話達はフィクションの世界での話だし、そんなことを言ったらキリがないんだろうけれど。

「コスプレ大会って……今ここは爆弾解体中。今すぐに避難しないと危ないぞ!?」
「防護服着てないお兄さんに言われても……」
「ぐっ……」

 言外に説得力がないといったのだが、ちゃんと伝わったらしい。そしてそれは本人も納得だったらしい。言葉にできないような声で返事をされた。防護服とかに関しては……まぁ、調べたからそこら辺の事情は分かってるけどほら、分からないふりをして言ったほうが効果てきめんかなと。

「避難するにも俺、万が一にもお兄さんに死なれたら後味という後味が最悪すぎるんでお兄さんも来てくださいよ。じゃないと避難しません」
「はぁ!?」
「ほらほら〜、お兄さんも早く早く。防護服着てないなら民間人みたいなもんでしょ」
「あっちょっ!!」

 防護服を着ていない萩原研二の腕を掴み、俺は勢いよく走り出した。
 あんなやり取りをしていたらどーせいずれ爆弾に吹っ飛ばされてお陀仏なのは明白だ。この先の展開を知らない萩原研二ならまだしも、俺は影の記憶によってそれを知っているのだから尚のことである。

 先に述べたように、俺は死にたくない。死にたくないのにこんなところでグダグダとしていたらどうせ最後はドカーンでポックリだ。誰がそんなこと望むというのだろうか。そんなことを望むのはせいぜい自殺志願者か心中志願者くらいだろう。
 少なくとも俺はどちらの志願者でもないのでご遠慮願いたい。

 それに、俺は別に嘘を言っていない。このままだと死ぬと分かっているのに俺だけ避難して生き延びるとか、後味が最悪すぎるにも程がある。
 俺が何とかすれば助かる命なのは明白だろうし、それならいっその事巻き添えで逃げたら早いのだ。
 ……死ぬと分かっていながら見捨てて逃げるのは、それはある意味殺人と変わりがないことなのだろうから。

 驚いている萩原研二の腕を掴んだまま逃げ続け——というより、非常階段から下へと降りていくことおそらく約数分。全速力で階段をかけおりていったおかげでなんとか十二階まで降りることができた——その時、とんでもなく大きな振動と爆破音が上からきて——俺とそれから萩原研二は倒れた。

「この音……まさか、爆発したのか!?」
「俺の愛用包丁全部パーになったな……あれ結構高いし良いやつなのに」

 片や爆発した現状に驚き、片や愛用包丁が全てパーになったことを嘆く。傍から見ればカオスである。
 というか、冷静に考えたらおそらく萩原研二の反応が普通なんだろう。俺はそうなることを影の記憶により知っていたから特に動じていないし、それどころか愛用包丁が全てパーになったことに対するダメージのほうが大きかったりする。

 いやだって……俺の愛用包丁高かったんだもん……。薄刃包丁うすば包丁に出刃でば包丁、それから柳刃やなぎば包丁にダマスカス包丁、あとその他にも色んな種類の包丁とかを持ってたんだけど、その一本一本がまぁ結構なお値段なのだ。ちなみに全て俺がお小遣いを貯めて買ったし、包丁によったら使ったあとは毎回のように研石とぎいしで研いでその後しっかり磨くくらいには大切に大切にしていた包丁達である。

 現在高校生の俺にとっては全て国宝物の価値があるものだ。値段高いし、一つ一つがお高いし。それがまぁ、今回のでパーになってしまったのだから正直爆発したことよりもそっちのダメージのほうが大きいのは仕方ないと思う。

 部屋が爆発して住めなくなることよりも、俺の大切な大切な包丁達が爆発によっておじゃんになるほうがとてもしんどいものだ。俺に呪いの知識とかそういうのがちゃんとあったら、きっと今回の件の犯人は末代まで呪われていたことだろう。俺が絶対呪っていた。
 学生のお小遣い(その上色々あって現在一人暮らしである)がどれだけ寂しいものか、あの犯人は分かっていないんだろう。許すまじ。

「君、とりあえず下まで降りようか。ここが完全に安全だとは言いきれないだろ?」
「ッスね。ああ、俺の包丁達……」

 事情とかよく知らないはずの萩原研二から見ても、かなりへこんでいるように見えたのだろう。哀れんだ目で肩をぽんと軽く叩かれた。同情してくれるなら一本一本約一万円とかそこら辺またはそれ以上くらいはする包丁達、買ってくれねぇかな……。流石に無理だよなぁ。あ〜、両親達にどう説明しようか。

 ちなみにこの後お互いなるべく早足で階段を駆け降りたし、その過程で自己紹介をしたりもした。俺の名前を言ったら結構驚かれたし、実家の話をしたらもっと驚かれた。警察では色んな意味で有名らしい。料理が美味しいという意味以外にも別の意味がありそうで、少し怖くて聞けなかったのはここだけの話である。




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