04:People call it feeding.
さあやってまいりました研二さんの家。
しばらく一緒に住まないかと提案してくれただけあって、一人暮らしにしては割と広めな感じでびっくりした。
俺はほら、家賃とかは親が持っててくれてたから……というかそれが一人暮らしする条件の一つだったのでね。
「キッチンもそれなりの広さがある……!」
「買ってきたやつ全部冷蔵庫に入れとくからね〜」
「ビール出していいか?」
「陣平ちゃん気ぃ早すぎ」
なるほどこれが勝手知ったる我が家ならぬ勝手知ったる研二さんの家。よく遊びに来ているのだろう、陣平さんは慣れた様子で冷蔵庫を開けて缶ビールを一本持っていた。
第二の実家かなんかなのだろうか。
「じゃあ今から作ってくんで、研二さんも陣平さんと同じようにお酒飲んで待っててもらって大丈夫っすよ」
「あ、そう? じゃあお言葉に甘えてそ〜させてもらおっかな! 冷蔵庫の説明とかはしといたほうがいい?」
「見たら何となくわかるんで大丈夫っすね」
「オッケー、じゃああとは任せた!」
陣平さん同様冷蔵庫を開けて缶ビールを取り出してくつろぎ始めた研二さんを見送り、俺は調理を始める。
とりあえず……きぬかつぎから作ろうか。あれ時間かかるから、早めにやっておかないと後が恐ろしいんだよな。
あとはお肉もだよな。あれもじっくり焼きたいから早めにやっておこう。あとはきぬかつぎに合いそうな煮込み料理も作りたいんだよな。となるとコンロ全部埋まるから……その間に和え物でも作るとするか。あとは巻き寿司とか? いやそれは面倒だからまた今度にしよう。
袋に入っていた子芋を取りだして、片面を切り落とす。全部切り落としたら蒸し器に——と思ったけど蒸し器がこの家にはないので鍋とザルを使って代用して蒸す。
お鍋の半分くらいの量の水を入れて、取っ手の付いたザルを鍋のふちに引っ掛けて、そのまま蓋をする。もちろん、子芋を並べるのも忘れずに。
蒸す時は切り落とした方を上に向けて、あとは特定の温度で長時間蒸すだけ。蒸したあとは粗熱を取れば食べると程よい甘さが口の中に広がる、美味しい美味しいきぬかつぎの完成である。まあまだ蒸し始めなので完成には程遠いんだけどな。
お肉は少しの間漬け込みをしておきたいので、ブロック肉の入ったジップロックの中に日本酒を適量入れる。これすると柔らかくなるんだよな〜。日本酒最強。
ご飯は鍋を使って炊くので、お肉を漬け込んでいる間に洗って30分の間水につけておく。俺は炊飯器よりも鍋派なのだ。むしろ炊飯器の使い方が分からない。実家は土鍋だったんでな。
ご飯を洗ったら、次は白菜をザク切りにしてフライパンに並べていく。研二さんの家にはフライパンが何個かあるからこそ出来ることである。
白菜を敷き詰めたら、予めスーパーで買っておいただし汁をまわしかけて蓋をし、火にかける。本当は鶏肉を蒸してその時出た煮汁を回しかけしたかったが、時間が惜しいのでだし汁を買って代用することにした。
だし汁は色んな用途に使えるので特に問題ないし、買って損は絶対ないのでおすすめだ。自分で出汁を引く場合は使わなくてもいいと思う。
そうこうしている間に20分程経っていて、新しい別のフライパンを中火で熱して次の作業の準備をする。
そのあと、ジップロックに入っていたブロック肉を取り出す。キッチンペーパーで軽く表面の日本酒を拭き取り、バットの上に乗せた。そこにだし汁同様スーパーで買っておいた岩塩を振りかけ、新しく取り出したフライパンの上にイン。あらかじめ熱しているため、それはそれはいい肉の焼ける音が聞こえてくる。
ちなみに火加減は強火である。これは表面だけにしか火が通らないんじゃと言われがちだが、後でするひとつの手間がそれを何とかしてくれるので特に問題はない。
「あ、そろそろじゃん」
ふと時計を見れば料理を始めてから30分が経過していたので、子芋が入っている鍋の蓋を開けた。
ざるを取り出して、塩をまぶして断面を上にしたままラップをする。ラップしてても粗熱くらいは取れるからである。
ついでに、白菜が入っているフライパンの方の料理を仕上げていく。とは言っても、比較的火の通りやすいひき肉を入れてまた蓋をするだけなんだけども。最後にちょっとしたことをするのでこれはあまり味付けをしない。したらおそらく味が喧嘩する。
「きぬかつぎはできた、白菜のほうもできた。あと肉と和え物と白米と、あと吸い物か」
「お〜、美味しそうなのできてんねぇ」
「うぉっ、びっくりした」
いつの間に近づいてきていたのか、俺の背後から調理している様子を覗き見てきた研二さんに、思わず肩が揺れた。あっぶね、包丁持ってたらやばかったな。いや、この人の事だし多分それを見越した上で今のタイミングで来たんだろうけど。
「ごめんごめん、美味しそうな匂いがしてたからつい我慢できなくて」
「や、大丈夫っすけど。もう少ししたら出来るんで味見とかは無しっすよ」
「……ちょっとだけでも?」
「ちょっとだけでも。ほら、戻った戻った」
よほどお腹がすいているのか、研二さんはおちゃらけた雰囲気で言ってはいるもののその表情は少々残念そうだ。
一つくらいなら味見と称してあげてもいいかもしれないが、そうなると陣平さんにもあげないと不公平になるのでな。なるべく公平性はあったほうがいいだろ。そんなこと気にするような人ではなさそうだけど、俺が気にするのだ。
「お、いい感じじゃん」
研二さんが陣平さんのところに戻ったのを確認した後、フライパンで焼いていたお肉に触れて焼き加減を確認する。これは感覚なので説明しようがないが、不安なら温度計とか買って温度を測るのもありだと思う。というか俺も普段はそうしてた。
まあ爆破して無くなったのでまた今度買わなきゃなんねぇけどな。爆発の犯人まじ許さねぇ。全額弁償してくれ。
とまあそんな犯人への恨み言はさておき、お肉がだいぶいい感じになっているので取り出してアルミホイルで包む。こうすることで中心部までゆっくり加熱され、絶妙な焼き加減に仕上がるのだ。それに、肉汁を落ち着かせることで流れ出るのを防いで味をなじませることが出来る。
ずっとフライパンで焼くよりも他の料理をする時の効率も上がるし、俺的にはこのやり方が結構気に入っていたりする。まあこういうタイプの肉は高いので実家から仕送りされてきた肉でしかしないしやれないけれど。
フライパンがひとつ空いたので今のうちにサッと食器洗いをして台所を片付ける。とは言っても手短に洗えそうなのをパーって洗ったりするだけれども。これは、料理をするのに周りが汚かったらあまり衛生的には良くないのが理由である。
使わないものはパッパと洗って片付ける。基本中の基本だと思う。
片付けたら次は吸い物を作る。本当はこれも出汁から引いて作りたいところだが時間が惜しいので市販の白だしを使うことにしよう。
予め買っておいた三つ葉を取り出して、根元をきりおとす。その後は大体4cm感覚に切っていく。
次に鍋を準備して、水を入れる。俺含めた三人分なので750ml位が丁度いいだろう。あとは研二さんの家に元々あった乾燥ワカメと焼き麸を入れて火にかけて、煮立ったら塩と醤油を少し入れて味と香りを整えれば完成である。なんてお手軽。ちなみに三つ葉は味を整えたあとに入れて、鍋を軽くかき混ぜたあとしんなりするまで待てばいい感じになる。
あとは和え物だが、なんかいいレシピ……あ、いいの思いついた。
冷蔵庫の野菜室を開けて、きゅうりを一本取り出す。それを輪切りに薄く切っていって、ボールに入れた。あとはお酢とワカメとじゃこを入れてまぜればあら簡単、お手軽な和え物の出来上がりである、和え物というより酢の物だがまあ気にしなくてもいいだろう。
白菜が入っているフライパンを火にかけ、温め直す。その後、中くらいの皿に盛り付けてその上から梅干しを細かく切り刻んだものを散りばめた。うん、見栄え良い。
最後に、それぞれのお皿に一つ一つの料理を盛りつければ——完成である。
「研二さん、陣平さん。お待たせしました、出来ましたよ〜」
盛り付けたお皿達を二人が座っている席の机の上に並べていく。まだビール一本しか飲んでいからか、そこまで酔っ払っている様子はない。
二人とも、並べられていく料理を見て目をキラキラと輝かせ始めた。子供みたいでわかりやすいな。
「美味しそう!」
「味には自信しかありません。どうぞあったかいうちに食べてください」
この約一秒後、二人息ぴったりな「いただきます」が部屋に響いたし、その数秒後には研二さんの美味しさに悶える声と顔と陣平さんの瞳がキラキラと輝きながら黙々と食べる姿を拝むことになった。
それから、研二さんには「翼ちゃん、ずっとここに住まない?」と言われた。さては研二さん、胃袋掴まれやすいな?
ちなみに陣平さんはその間も黙々と食べ続けていたし、多分研二さんよりも食べていた気がする。その姿がリスに見えたのは秘密である。というかバレたら多分絞められるので死ぬまで黙っておきたい。
*前次#
小説TOP | サイトTOP