side story:Kenji Hagiwara
一口噛めば柔らかな食感と肉汁が広がっていって、あっという間に肉が溶けていく。柔らかくて食べやすくて、それから美味しい。
こんなに美味しい肉料理はそうそうありつけないと思う。
他にも、子芋はちゅるんと皮から取れて食べやすいし、甘みがあって美味しい。大きさも小さいから一口で食べられるし、ビールにも合う。それに白菜の煮物も、梅干しがいいアクセントを出していて酸味が効いていて美味しい。
吸い物も酢の物も、どれもこれも美味しくてたまらない。美味しいって幸せ。隣に座っている陣平ちゃんを見れば目をキラキラと輝かせながら黙々と食べていた。俺もそうだけど陣平ちゃんも胃袋を掴まれたみたいだ。
さすがはあの料亭の息子なだけある、ということだろう。噂とか話は上司から聞いたりしていたけど、想像以上に美味しすぎた。これがほぼ毎日食べられるってほんと……? 期間限定なんだろうけど、ほとんど毎日食べられるの?
「……翼ちゃん、ずっとここに住まない?」
「えっなんすか急に」
「毎日翼ちゃんのご飯が食べたいな」
そう言ったら翼ちゃんは目をぱちぱちとさせて首を傾げた。
「…………プロポーズ?」
「萩原、俺はお前を捕まえたくはねぇぞ」
「待って誤解だから! そういう意味じゃ無いから!」
隣に座る陣平ちゃんにドン引きされた目で見られた。
流石に未成年に手ぇ出すほどやばくないから!
——とか言ってたのが懐かしいなぁ。
あれが四年前だから……翼ちゃん、今はもう20歳になったんだっけ。
よく事件に巻き込まれるわ、爆弾事件にも巻き込まれるわで、俺や陣平ちゃんどころか俺達を通して知り合った班長にも心配される翼ちゃんは、今は実家に戻って料理人としての修行に勤しんでいる。
元々高校生の時だけ一人暮らしをするという約束だったらしい。高校を卒業してからは実家に戻って修行をするんだと聞いていたので特に驚きはしなかった。寂しくなるなぁとは思ったけど、翼ちゃんってば暇な時にフラ〜って来てはご飯を作ってくれるから、正直あまり寂しくなかった。
というか、寂しいよりも心配のほうが勝っちゃっているかもしれないな。翼ちゃんってば、よく事件に巻き込まれるから。
お祓いにも行ったって聞いたけど、行った一週間後に事件に巻き込まれたらしいから多分関係ないんだと思う。あの時の翼ちゃん、結構疲れてたなぁ。俺も陣平ちゃんも無言で肩に手を置くしかできなかった。
「……翼ちゃん。お祓い、もう一回行かせたほうがいいんじゃないの」
たらりと、背中に冷や汗が流れる。上司から聞かされたのは、爆弾がある観覧車に乗ったらしい陣平ちゃんと、乗っていたらしい翼ちゃんのことで。二人揃って今も尚爆弾のある観覧車に乗っているとのことで。
茶化すようなことを言っている場合では無いのは充分に分かっているけど、そうでもしなきゃどうにかなりそうな気がして、思わずそんな言葉が口からこぼれた。
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