糖度高めにドーリーガール

ああ、どうしよう。

デートの日の朝に「ちょっと可愛く見せたいな」という私の淡い乙女心と好奇心が相まって前髪を切った。

しかし、そんなときに限って失敗するのがお決まりなのだ。そんな切りすぎて不恰好になった前髪をどうにかしようと横から後ろ髪を持ってきたり上げたりして試行錯誤。

あの人、きっと指をさして笑うだろう。待ち合わせ30分前、私は鏡台の前で百面相。

メイクはばっちりなのに変に短くなった前髪が自信を無くさせた。別に邪魔でも無かったし目にも入ってなかったあの前髪を何故切ったのか。鉛のような溜息が幾度なく溢れる。

今日のデートの為に友人に選んで貰った鮮やかな藤色の反物も何だか色褪せて見えてきた。やっぱり桃色にしておけば良かったな。

ふと同居人へと顔を向ける。"何とかしてくれ"と藁にもすがる思いで視線を送る。それでもこの淡白男には私のこの焦げ付いたカラメルのような想いは届かないだろう。

一瞬チラりと此方に目配せするも案の定、すぐに興味など微塵も無いといった風に傀儡の動作確認をしている。

「自業自得だろ、フラれてこい。」

師でなければこの憎まれ口を針と糸で縫い合わせてやったのに、と益々心中に黒い靄が募るばかり。ブラシで梳かしてもヘアオイルを塗ってもコロンをつけてもちっとも変わりやしない前髪、切り揃えたその真っ直ぐな直線がやけに目に付く。

「後ろも降ろして横に流して固めればいいじゃねーか。」

"後15分もねーぞ"とご丁寧に忠告付きで神の声が舞い降りた。ケッと言わんばかりの顔付きで相変わらず不機嫌そうに傀儡を弄る師を久し振りに"人として"尊敬した気もする。リボンを解き、髪結い紐も解く。

ハラリと落ちた後ろ髪は若干型が付いたものの、手櫛で何とかなる程度だった。
上へ持ち上げるように前髪を右側に流す。うむ、中々サマになっているじゃないか。

スプレーをかけた髪をブローブラシで絡めとり内巻きにしながらドライヤーを掛ける。気分は最高だった。鼻歌だって漏れてしまう。

「それ、どっかで見たことあると思ったらアレだ。乳袋女。」

師は思い出したかのようにそう私を指差した。胡座をかきなおして頷く。

「まあ、こっちの乳袋はそこまででもないがな」

ムッとしようにも如何せん今は毒舌の相手よりも大好きな彼との待ち合わせの方が大事だ。私は立ち上がり姿見の前で帯を確認する。藤色に映える瑠璃色の帯を真っ直ぐに整えて、思い切って膝上12cmにした丈をお尻を気にしながら引っ張る。

「行ってきます、あ…もし完成した傀儡取りに来る人がいたら相手してくださいね。」

「店主不在でいいのかよ。」

それでもヒラヒラと片手を上げて「早く帰れよ」と言う師はやはり私の兄でもあり父でもあるようなそんな存在なのだ。

私はブーツを履いて急ぎ足で待ち合わせ場所に向かう。砂漠の乾いた風が頬を掠めてて、胸が期待で膨らんだ。

歪な前髪もきっと今なら可愛く思える、デートが終わったら2人の親友にこのヘアアレンジを自慢しちゃおうか。風で割れた前髪をガラス窓を覗き込み直す。其処で自分のスカートの丈の短さに少し後悔するのだ。

「それ、丈が短すぎるじゃん」と照れた彼に怒られるまであと5分、「それに、雰囲気変わったな」と整えた前髪を角張った指先で撫でられるまであと3分。