些細な事でした。

私はあの人から伸びる糸で繋がれた操り人形だった。それがどうしたことだ、大事な何かがプツンと歯切れの良い和音の響きを奏でて切れたようなそんな気がした。

糸はいつか切れる、それは自然の摂理であるのに『これから私はどう生きていけばいいのだろう』と不安が重苦しく半個体の物質となって胸に蓄積される。

誰も来ない、来るはずがない…来てはいけない。暗い暗い、埃っぽい小さな部屋。この狭い石の部屋が私とあの人の世界の中心だったと錯覚していた。

ごろりと転がる作りかけの傀儡は私を嘲笑うかの様に軋んだような気がした。(実際に軋んではいない上に、部屋は静寂そのものであったが)

18歳、私の世界がモノクロームに閉ざされて小瓶の向こう側が磨りガラスのようにしか見えなくなった瞬間である。

本体の身体は細胞が止まり歳をとらないように精巧な術式の部屋に在った。
精神が縫い付けられたのは半分も傀儡になりきれていない不便な身体。

私は人傀儡の失敗作だと、ボツ作品だとあの人は云った。天才と謳われたあの人が言うのだからそれは事実だろう。私は悲しくなど無かった、あの人のコレクションの一部として飾って貰えたから。ただただ誰かに愛されたかったのだろう、あの人も私も。

私の"繋がり"が消えてから砂漠に何回目かの朝が来た。未だにあの人は戻らない。もう二度と会えない気もする。

『そろそろ会いたいです。仙人掌の花が咲きましたよ。とっても、とっても珍しいです。』

何度も何度も扉を振り返っても無駄だと気が付いた頃には仙人掌の花が目の前で態とらしく咲き誇るのがどうしようもなく憎たらしかった。

私は仙人掌の花を蹴飛ばす振りをして目を閉じる。
どうやら私はあの人に似てしまったようで、"待つ"という行為は苦手なようだ。
少しだけそれが嬉しくなって笑みが溢れる。

そうして眠くなるまで薄汚れた布団に顔を埋めてニヤつく顔を隠すのだ。
あの人が帰って来ても恥ずかしくないように。