「ところで凪沙」
「ほいよ?」
柏螺たちと別れ暫く歩いたところで、真剣な表情の紅苑が凪沙を呼ぶ。
その真剣さといったら相当なもので、気楽に返事をした凪沙は、ちょっと自分の呑気さに後悔したい気分になった。
「な・・・なになに?どったのクーちゃん?そんなマジな顔しちゃって」
「それのことなんだが」
「は・・・?それ?」
「・・・あぁ、それだ」
「・・・・・・何が?」
彼にしては珍しいあやふやな物言いに凪沙はクエスチョンマークを頭に浮かべる。
どうも紅苑は伝え方に迷っているようだ。目を細めたり、腕を組んだり、頭を掻いたりと完全に挙動不審。
「クーちゃん今変な人になってるわよ?どうしたの本当に、言いにくいこと?
ハッ実は私のスカートが捲れ上がっちゃってるとか!?いやん!エッチ!」
「いや、そんなことはないから安心しろ。
その・・・俺が言いたいのはだな・・・」
大袈裟な演技すら、あまり構って貰えず更に凪沙は首を傾げる。
そこまで余裕を無くすとは・・・余程のことなんだろうか。凪沙は本当に服に乱れがないかどうか自分の姿を確認してみるが、特にそんなことはない。
「本当・・・なに?そろそろ私クーちゃんに恐怖を感じちゃうんだけど?」
「その・・・呼び名が、だな」
「はい?すみませんワンモアプリーズ?」
「・・・く、“クーちゃん”という呼び名なんだが・・・!」
「え・・・はぁ・・・」
「凪沙は・・・さっき二人をお前のあだ名で呼んでたよな?」
「二人?“ヒャーくん”と“キーくん”のこと?」
「そ、そうだ」
何故かじっとりと汗をかきながら紅苑はぎこちなく言葉を続ける。
心なしか顔がほんのり赤い。あれ?もしかして今貴重な場面見てるかな?とか考えながら凪沙は次の言葉を待つ。
「つまりだな・・・俺がなにを言いたいかと言うとだな・・・・・・何で二人は“くん”付けで、俺は“ちゃん”なのか・・・と」
「え?だって“クーくん”呼びにくいじゃん。だから“クーちゃん”、その方がなんか親しみある気もするし」
「・・・・・・っ!」
思ったままのことを言えばガクッと肩を落とす青年。
一気に脱力するほど残念な結果らしい。
「何で〜?クーちゃん嫌なの?でも今更“紅苑さん”もよそよそしいと思わない?」
「・・・それでも、男には多少のプライドと言うものが・・・・・・くっ」
「ん〜・・・もう腹くくって受け入れちゃえ☆その方が楽だと思うぞ!」
「・・・・・・諦めろと・・・諦めろと言うのか・・・」
「その通りだ!さ、話は終わり!キョーちゃんに置いてかれちゃう!」
「・・・・・・・・・」
そうして話が終わり、凪沙が走って追いかけた後も、紅苑は暫く俯いたまま何事か呟いていたが、最後に溜め息を一つこぼして、前を行く二人を追いかけるように歩き出した。
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クーちゃんに未だ抵抗がある紅苑。
しかし彼の願いは届かないのであった。ちゃんちゃん。