純粋



真っ暗だった。
暗くて、黒くて、冷たい閉じた場所にずっといた。
とにかくここから出たいと思った。
だからつるつるとした床を懸命に探して、壁を見つけた。
見つけた壁を、小さな凸凹を頼りによじ登る。
だけど登っている途中で指が引っ掛からなくて、固い壁をひっかいてしまう。
その内爪が剥がれて、痛くて力が入らなくなって、流れた血で指先が滑った。
そのまま落ちて、全身に痛みが走る。

痛くて、痛くて痛くて辛いけど、また壁を登る。
なぜか剥がれた爪は元に戻っていて、だから何度も何度も爪が剥がれて、痛くて、血が流れて、滑り落ちて、また全身が痛む。
だけど壁を登ることを諦めたくなかった。

だって、光が呼んでるんだ。

目に見えるわけじゃない。
だけど、目が覚めてからずっと僕を呼んでいる。
あったかい光がずっと向こうから呼んでくれる。

だから痛みを我慢して何回も何回も壁を登る。
登って、登って、落ちて。また登って、登って、登って。

とうとう壁の感触が消えて、壁の一番上みたいな、ぺったんこになっている場所を見つけた。
嬉しくて、痛む手を我慢しながら腕で体を持ち上げる。
でも、持ち上げたら頭にチクッとした痛みが刺さった。
ビックリして見上げても、暗いから何も見えない。
恐る恐る頭がぶつかった先へ手を伸ばしたら、細い棒のようなものが指に当たった。
なんだろうと思いながら、棒をギュッと握りしめる。

そしたら、手のひらにたくさんトゲが食い込んで血が出た。
あまりの痛さに驚いて、そのまま滑り落ちてしまう。

固い床に体がぶつかれば、聞き慣れてきたグシャッていう音。
今度は全身だけじゃなく、胸や頭の内側まで痛かった。
悲しくなって、涙がぽろぽろ溢れた。
登るのを止めて床にうずくまる。

でも、また僕を呼ぶ光の方に行きたくなった。
ずっと僕を呼ぶ光に近づきたい。
あの光に触りたい。

また壁を登る。
もう一度壁の上についたら、落ちないよう踏ん張ったままトゲを触ってみる。
握らないようにしながらトゲを探ると、トゲは壁の上から網みたいに生えてるのがわかった。
それに、真っ直ぐな壁と違って、網は壁の内側の方に曲がってるみたいだっだ。

トゲを掴めば、容赦なく手のひらに食い込んできて、熱い液体が腕を流れる。
痛くて、痛くて、また涙が出た。
だけど歯を食い縛って網を登る。
上に行けば光に近づけると信じて。

掴んでも、離しても、痛くてたまらないトゲの網登りも、壁の時みたいに何回も落ちた。
それでも登る。何度も、何度も、何度も、何度も。

何回挑戦したか分からなくなった頃に、やっと網の一番端までこれた。
壁から斜めに延びていた網の上によいしょとよじ登る。
足にトゲが刺さるし、下り坂みたいな網の上に立つのはちょっと難しい。
それを堪えながら辺りを見渡したら、光に呼ばれた。
それがなぜか、さっきまで上から呼んでたはずなのに、今度は下から僕を呼んでいる。
どうやら、今まで僕がいた壁の反対側から読んでるみたいだ。

足の裏をボロボロに血で濡らしながら、ゆっくり網を下る。
自分がいた、壁の外側へ。
下れば下るほど急になって、最後には足場がなくなって落下した。

つるつるした床へ体を打ち付ける。
うずくまって、痛みがなくなるのを待ってから、体を起こした。
手を伸ばしてみると、ずっと登ってただろう壁があった。
光はその壁の反対にある空間から僕を呼んでいる。
立ち上がって、壁から離れるように歩き出した。

光に呼ばれるまま、腕を伸ばしながら歩いた。

しばらくそうしていると、突然手のひらに冷たいものが刺さった。
ビックリして後退る。
恐る恐る刺さったものの方を探ると、網にあったものとは違う、大きなトゲを見つけた。
三角形のトゲを指でたどってみると、トゲはごつごつした壁に生えているようだった。
しかも、壁には同じ大きさのトゲがびっしりと並んでいて、その間に小さくて鋭い別のトゲもあるみたいだった。

光が僕を呼ぶ。
上においでと呼んでいる。

落ちれば痛いのは知ってるし、トゲは痛そうだから登りたくないって思う。
だけど、それ以上に光が欲しかった。
僕だけの光が傍に欲しい。

だから、登った。
さっきの壁よりずっと痛くて、ずっと高いらしいゴツゴツした壁は、登っても登ってもトゲしかない。
手足はトゲが刺さって痛いし、あまりの長さに途中で疲れてしまう。

そこで、疲れたらわざと自分の体にトゲを刺してそこで休んだ。
痛すぎて刺さってない場所までズキズキ痛むけど、落ちるよりマシだから我慢した。

登って、休んでを何回も何回も繰り返し進む。
ただ、光の傍に行くために登り続けて、

長い長い長い時間、ずぅっと登った。






そして、その上にそこはあった。


まっ平らで、黒以外の色がある場所。
色んな音もたくさんある。

突然、びゅおおぉという音を立てて、風がぶつかってきた。
ぎゅっと目をつむると、光の呼ぶ声がする。

僕はハッとした。

だって、真っ暗なあの場所より、ずっと強く光が呼んでくれたから。

光が呼ぶ方へフラフラと歩き出す。
一歩、二歩…少しずつ早く歩いて…いつの間にか僕は走っていた。
黒い場所には無いものがたくさん見えたし、聞こえたけど、全部無視して僕はただ走った。

走れば走るほど、ハッキリと光が僕を呼んでいるのがわかる。

ねぇ、君に近づきたい。
ねぇ、君の傍に行きたい。
ねぇ、君に触りたい。
ねぇ、君が欲しいよ。
僕は君が欲しいよ。
ずっとずっと僕を呼んでいる君(光)と一緒にいたいんだ。


だから、もっと強く僕を呼んで。僕だけのヒカリ。


君の隣に行くことを、僕は絶対諦めないから。
走りながらぐっと腕を伸ばす。
君の方へ伸ばした指先が、少しだけあたたかい、そんな気がした。



++++++
不老で、怪我をしても直ぐに治る、不死身の体を持った子とヒカリの話。

一途に光を求めるこの子は罪を持った存在で、この子がいたのはいわゆる檻のような空間です。

元々は「純粋な悪意の塊(悪意というよりはただ力を持った存在と言える)が地獄のような檻に閉じ込められてる。檻の上部には小さな書庫があって、檻を出た悪意が世界を勉強してから、自分の大切なものを探すために外に出る」というものでした。
それから色々ファンタジーに膨らませましたが、それらをバッサリ削ってこんな形にしてみました。

辛い思いをしなければいけないけど、それを受けてでも揺るがない強い気持ちを持つことは、きっと難しいんだろうな。


- 111 -

  | 


戻る

小説トップへ戻る



メインに戻る


サイトトップへ戻る



ALICE+