
『さようなら』
何度目か分からない別れの言葉。同時に力が抜けていく体、冷たくなる手。
閉じられた瞼は二度と開かないって知っている。
「どうしてだろうな」
ある日そんなことを口にしたら、友人である少女は苦笑いでこう言った。
「きっと、決まっていたんです。目覚めなくなることは……運命だったのだと。
だから最後にさようならを言うんです。そして、きっと私も貴女も運命は決められる。
だから最後にさようならが言えるようにしておきましょうね?」
小首を傾げて、まるで言い聞かせるように少女は悲しげに微笑んだ。
じゃあ何故運命は決められているのか。
「どう思う?」
そう聞いたら聞かれた本人は最初唖然として、そして盛大に笑いだした。
「お前は本当たまに変なことを言い出すよな!」
失礼な。
「まぁ怒るな。質問の答えな?そりゃあおめぇ、言うなりゃ自然のルールってやつだよ!
俺はこう考える。運命ってやつは、人間が偉大な自然に対する無力さに対してつけた名なんだと。例えば時間、例えば災害。
人間なんてちっぽけな存在に手が出せないものは溢れすぎていて、その中でお山の大将気取るための負け惜しみに、運命だとか必然だとか名前つけて、仕方がないって終わらせるのさ。
運命は決まっているっていう決まり文句も、弱い人間が多すぎる不条理に完全に負けちまわない為の言い訳なんだろうさ!」
最後に大きな笑い声を立てて、オマケにボクの頭を一回叩くと彼は大股で去っていった。
じゃあやっぱり運命は運命でしかないのか。嗚呼、頭がこんがらがって痛くなってきた。
人間が弱い。確かに理にかなってる。
だってほんのちょっと本質を考えようとしただけで体の司令塔が悲鳴をあげるのだ。
「情けないなぁ……」
人という生き物。そして自分自身。
情けなさ過ぎだろ。
「お前が考え過ぎなだけじゃねぇの?」
そう言ったのは最近知り合った奴。げっそりとした顔でこちらを見ている。情けない顔だ。
「理について考えるなんて当たり前のことだろう?」
「それはお前の常識だ。普通誰もがそんな大業なこと考えたりしねぇよ」
「その普通もお前の常識とやらだろ」
「そうだよ、悪いか?ここの教育水準がやたら高いんだよ。おかしいだろ」
「それはつまり、自分がうけた教育は低いから、自分は馬鹿だと認めた発言だぞ?自覚してるか?」
「うぐっ……!」
悔しそうに顔を歪めてる姿と、奴を言い負かしたことに僅かながら優越感を得る。同時に、そんなことで勝てたと思う自分のちっぽけさも。
「にしても運命かぁ……運命なぁ……そんなこと深く考えたことないな」
「どうせならお前にも聞いてやるか、なぁどう思う?」
「上から目線がムカつく……。まぁいいや、運命な……うーん……、お前らが出した結論はつまりさ、『運命は凄すぎて敵わないものである』ってことだろう?」
「やけに砕いてくれたな……まぁそんなもんだ」
「んー……俺はそう思わないけどなぁ」
「ほう?じゃあお前はどう考えるんだ?」
「だってさぁ、運命だなんて決まってるって言っても誰もわかんねぇだろ?」
ああ、こいつ馬鹿だ。
「おいその顔やめろ。わかってて言ったんだよ一応だっつーの。
あーっと、例えば今俺とお前が話してるだろ?多分それも運命に該当する」
「まぁそうだな」
「じゃあさ、お前は俺に運命について質問する気が前もってあったか?」
「は?……別に、ちょっとした出来心で聞こうかなと思っただけで、最初っから聞く気はないよ」
「いちいちムカつくなお前は……ん〜まぁそう言うことだ。つまり誰も運命を知ることは出来ない。あ、でも当たる確証の少ない予測は誰でもできるけどな」
「で?結論は?」
「だからさ、運命なんて『決まってる』んじゃなくて、『決めていく』ものなんじゃねぇの?」
「決めていく……?また不思議な発想だな……」
「そうか?だって人なんてアレじゃん。起こった出来事に対して都合のいい解釈をするだろ?他人がなんと言おうと自分がそうって言えばそう。
だから運命なんて人が起きたことに対してつけるもので、別にこれから起こる右も左も分からないことを無理矢理、運命に当てはめる意味はない……と俺は思う」
言い終わったところを横目で見てから、頭の中で奴の言葉を繰り返す。
運命は『決めるもの』
『決まっている』のではない。
「……やっぱりボクとお前は育ちが違いすぎるな」
「え?俺、貶されてる?俺のこと馬鹿にしてますか〜?」
「別にそうは言ってないじゃないか」
「じゃあ何だ。何が言いたい」
「深い意味はないけど……とりあえずはそうだな……」
面白いとでも言っとくか。
ボクの言葉が予想外だったらしく、ぽかんと馬鹿みたいに口を開けてる奴を見て、もう一度ボクはさっきとは違う優越感に笑った。
