
「ん……」
夜更けの晩、眠っていた唯は不意に何かの気配に意識を起こされる。
まず感じたのは体にかかる重さ。布団なんかより何倍も重い何かが重圧をかけている。
その後、嗅覚。仄かに香る甘い匂いにまた微睡みかけるが耐えた。
最後に、視覚。ぼんやりとした頭のままゆるゆると目を開ける。
目を開けて。
「あ……」
「……」
何かと目が合った。
闇に同化するように真っ黒な服に身を包んでいるが、覗いた肌だけは月明かりに反射して白く薄く光っている。
それは今日の午前中、手合わせをした相手―狗縲だった。
その相手が何故か自分の腹の上に股がっている。
……しかも午前中より若干、薄着で。
未だ覚醒しきらぬ困惑した頭で彼…女を見つめる。
「……起きちゃった」
「や……何してるの?あんた……」
「……おはよう」
「おはようじゃないし……何してんの?あんた」
「……まさか起こしてしまうとは……計算してなかったんだ」
「何の計算だよ……てかさ、何してんの?あんた?」
「……それにしても君は、体温が高いね……」
「質問に答えろよ!本当に何してんのあんた!!」
がばっと跳ね起きて責めたいところだが、何分腹に乗られていて身動きが取れない。
しかもよくよく状況を見れば、器用に両腕の自由まで封じられている。
闇討ちにでも来たのか?
嫌な汗をたらりと流すと彼、女は僅かに俯いて口をモゴモゴさせた。
「そんな……こと、言わせるんだね、君は……」
「当たり前だ!いきなり起こされて、いきなり腹に乗られて、こっちは訳が分からないんだからな!」
「…………分かった。恥ずかしい、けど……」
「な、なんだよ……」
「言うね……?
その……ボクがここにいるのは……その、目的を端的に言うと、
………………夜這いに」
「帰れぇっっモゴッ!」
「……いきなり大声を出さないで。周りが起きる」
「出さずにいられるか……!」
早く誰かに救援を求めようと口を開けるが、それを顔を仄かに赤くした狗縲に塞がれる。
足をバタバタ動かそうとすれば細い足が絡んできて動きを封じられた。何て器用な!
「そんなに暴れないで」
「うるさい……!今日会ったばかりの相手に、こんな怪しいことされて落ち着いていられるかよ!」
「……意外。“夜這い”の意味が分かったの?」
「うぇ?あ……いや……」
どうしてそこなんだよと、ツッコミたくなったが、顔をずいと近づけてきた彼、女のその異様な気迫に言葉を呑んだ。
「し……知ってるっていうか……ヒナが変なテンションで語ってくれた話にあった気が……その、下ネタ連発してたから真面目に聞いてないけど……」
「……で?“夜這い”の意味は?」
「うぇ?あ……えっと、今のあんたみたいにあれだろ?夜中勝手に人の寝床に不法侵入することだろ?」
「……手順としては間違ってない」
「は?は?」
もうなんだか意味が分からない。
変な光を宿した瞳が、怖い。それに頬の赤さがプラスされてて、妖しすぎる。なんだこの空気。
「……ねぇ獣刃……ボクの本当の目的、知りたい?」
「本当の目、的?」
「うん」
更に狗縲が顔を近づけてくる。
その近すぎる距離に、唯はあの出来事を思い出してしまい、顔を赤くした。
「狗……縲?」
「……ダメだよ、そんな顔するなんて……もっと欲しくなるじゃない……」
「欲しい……?」
「そう、君は強いから……どうしても欲しくなって……それで来たんだ……」
「な、何を?」
「君の……遺伝子」
『…………?』
唯は頭が真っ白になるのを感じた。
今狗縲はなんと言ったのだろう?
オレを強いと言ってくれた。それは素直に嬉しい。
でもその後だ。
なんと言った?
「……うわあ゙ああ゙ぁぁぁ゙ぁぁぁぁっっ゙っ!!!!!!!!」
唯は全力で、叫んだ。
その声に飛び起きた隣室のガリアが、何事かと唯の寝る部屋に直行する。
そこには青い顔でガタガタ震える唯と、彼の足の上で困ったように顔を赤らめている狗縲の姿があった。
この時から、狗縲によるストーカー行為は幕を開けたのだった。
++++++
護衛対象そっちのけで気になる彼の元へ忍び込む狗縲ちゃん。
唯はいじられキャラです。ええいじられますとも。
描いた時期から若干日がたっているので少し表現を変えました。でも逃げようもない下ネタ。
