内に“獣”を宿した幼子。

私はその“獣”を抑えるための“刃”を持たせるために彼にこの姓を与えた。

“獣刃(ししば)”

五月蝿いお爺様方は反対してきたけど、私には端から決めていたことだ。


この子を私の“連れヒト”にすると。






「ヒナ……」

小さな声で私を呼びながら、唯はぎゅっと抱きついてきた。そっと頭を撫でてやると、ホッとしたように瞳を閉じるのはこの子の癖だ。

「どうしたの?」

優しく問うと唯は僅かに俯いた。言い出すのに躊躇しているらしく、たまにこちらの顔色を伺っては俯きを繰り返す。

「……本当にあの人達と行くの?」

人達とは今朝方、顔を合わせたお堅いお爺様が決めた“連れヒト”の事だろう。
唯は人との触れ合いが極端に少ない。
人見知りでもして、こうやって自分のところに来たんだろうか。

「……あの人達……ヒナより大きい、よね。何だか……怖いよ」

抱きつく腕に力を込める唯は、どうやら人見知りではなく“彼等という存在”に怯えているようだ。
これも人から遠ざけてしまった故だろう。だからこそ、私は道を正してやらなければならない。

「そんなことはないわ」

あやすように背中をポンポンと叩けば、若葉色の大きな瞳が下からのぞき込んでくる。

「確かに最初の内はきっと怖いだろう。だって、全然知らない“他人”だもの。けど、長い時間を共有すれば自ずと関係性は変わってくる。そして、すぐに怖くなくなる」
「……ホントに?」

おずおずと聞き返してくる唯に微笑みかけながら小さな体を抱き締める。

無垢で、素直で、臆病な唯。
この子は未だに世界を知らない。私がそうしてしまったのもあるけど、この子自身、まだ外に興味関心が薄い。

でもきっと、それは残り僅かな間だけ。
外を知るキッカケを与えさえすれば、唯は自らの二本足で“世界”を広げていくだろう。その身体に、心に、記憶にたくさんの“思い出”を築き上げることだろう。

そしてたくさんの人と触れ合って、いつかは寄り添うべき人を見つけるはずだ。

それまでは、それまでは私が、彼の“母親”。
だから私は守るのだ、唯を自分の傍に置くことで“獣”から。

うとうとと微睡みだした唯から少しだけ体を離し、その瞳の奥を見つめた。
そして見つける。


“寂しさ”に紛れるように埋もれた“ソレ”。

“人を求める”この子とは真逆の完全な“拒絶”。

あの日、緋雅哭が見つけた時にぶつかりあった片割れ。

それは、猛々しくていながらも冷えきっている“獣”。


なにかも分からない、唯の内に生きている“何か”。
唯が『コワイ』と泣いていたあの日、“獣”は『ヨルナ』と吼えていた。

今となっては、どちらが唯と名付けた子供の本質であったか定かではない。もしかしたら、いつか表と裏がひっくり返ることも有り得る。

だから私はこの子を傍で見守りつつ、“獣”を抑えるための“刃”を身に付けさせるために、連れて行くと決めたのだ。

そっと唯の頭を撫でた。落ちかけていた目蓋がもう一度開かれる。


その中にいたはずの“獣”は、もう見つからなかった。




++++++
唯くん12歳くらい。
まだガリアとルーフィドにも馴れてない時。甘えたでした。


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