たまには近い距離で




「狗縲!」

パタパタと音を立てながら近づいてくるのは、ボクと同じく“天仔の連れ人”と呼ばれる護衛をしている少年。そして、ボクが想いを寄せる人。

「はぁ、はぁ……狗縲今暇か?」
「うん、暇ではあるけれど……息を切らしてどうしたんだい唯?」
「い、今な!ヒナが面白いものを持ってきてくれたんだ!」

頬を紅潮させながら語る唯の瞳はキラキラと輝いている。「一緒に見に行こうぜ」とぐいぐいこちらの腕を引く姿はまさしく、幼い子供のようだった。


“連れ人”になる以前、天仔に拾われ育てられた少年。護衛をする“天仔”と忠義で結ばれることが多い“連れ人”の中で、全く別の絆の形を持つ異例者。

彼は“神児”の一人であると聞いた。

“神児”に選ばれたものは総じて数奇な運命を持つ。唯の異例という形も、そう説明されると納得してしまえるのだ。


唯は特別な人間。


それが、まだ話だけで彼を知った頃のボクの考え。

でも、違うんだ。


唯は特別でもなんでもなかった。
むしろ、数奇な運命を歩かされていることでたくさん苦しんでいた。

昔の彼は、笑顔を見せてくれることすらほとんどないくらい人を警戒していて、なかなか心を開いてくれなかった。
でも、怖がりだけど素直で、寂しがり屋で甘えん坊。人を遠ざけてては寂しいだけだと知ってた。

隣を歩けるようになるまで少し時間はかかったけど、慣れてしまえばどうってことはない

ちょっとずつ距離を縮め、少しずつ彼は自分を教えてくれた。


まず、彼がとても強いこと。
非常に好奇心が旺盛であること。
夜の暗闇が苦手なこと。
記憶喪失であること。


そんな日々の中で、気づけばボクは唯に恋をしていた。
“強い者に寄り添う”が心情な家柄なのもあると思う。

だけど、彼は恥ずかしがり屋だから必要以上に近づくと逃げてしまう。
いつもは逃げてしまう反応が可愛くて、わざと追いかける日もある。でも、本当はただ一緒にいたいから一定の距離で君に接するよう心がけてる。

なのに、なのに今は必要以上に近い距離。ぎゅうと握られた掌は温かくて、見た目以上に大きい。
そんなことに気づけないくらい連れてくことに夢中なんだろうけど、この状況は少しだけ落ち着かない。

ドキドキと高鳴る胸。
唯の笑顔を近くで見せられれば、恥ずかしいけど、すごく嬉しい。

いつもこうであればいいのに。
そんなこと叶わないことなんて百も承知だけど、願わずにはいられないよ。
だってボクは、いつでもこんな距離で君と一緒にいたいと想ってるんだから。
少しでも、君に同じ気持ちを抱いてほしいな、なんて。


「……唯」
「ん?」

だから、ボクはこのチャンスを逃がす気はないよ。


ちゅ……。


唇を唯の柔らかいほっぺに押し当てる。ぴくと体を震わせた唯は足を止め、こちらを凝視した。ドキドキうるさい心臓を隠すよう歩調を上げて唯を追い抜かす。


「さ、行こう唯」

クンッと彼の服を引っ張る。もう恥ずかしくて、彼の顔なんて見えないけど、脳裏で慌てた唯の姿を容易に想像できてしまい、プッと笑ってしまった。


「ボクは君が好きだよ」



でもまさか、お返しがくるなんて思いもしなかったけど。

++++++
世界が変わっても狗縲は唯にアタックしてます。


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