『あれ?』
日曜日。買い物に出かけて数時間ほど家を空けている間に大きな靴が一つ増えていた。いつも迎えにくる愛犬のコーギーも、どうやら今日はこの靴の持ち主の所にいるらしい。見覚えのある靴は綺麗に端っこに寄せられている。体の大きさに似合わずしっかりとしている奴だと思いながらリビングへ向かう。
『お母さんただいまー。泰宏来てるの?』
「おかえりなさい。ええ、さっきまでお父さんと将棋指してたわよ。またお父さんの部屋であんずと一緒に居るんじゃないかしら?」
成程、将棋か。私の父は小さい頃から一緒に将棋を指すのが好きだった。最初は私とやっていたが、泰宏が覚えた途端あいつは強いと、定期的に彼とするようになった。それは小学生の時から少年院に入ってしまったあの事件以来も変わらず。
うちの父と泰宏の父がとても仲が良く、家もお隣同士だった事から家族ぐるみの付き合いをしている。だから、彼が私の家に遊びに来てるのももう慣れた事だ。最早家族同然のように家にいる。
母親にありがとうと告げ隣の部屋へ向かった。
『お父さんただいま…って居ないや。よっ!泰宏勝った?』
「……名前か。いや、勝てると思ったんだがよ…やっぱおじさん強ぇわ。」
ひょこっと顔を出せば父の姿はなく、泰宏は一人で将棋台に向かって将棋を指していた。まだまだだなと膝上に寝ているあんずを撫でながら呟く。そんな彼の隣に座り私も将棋台を見る。昔やっていたから多少は分かるも今となっては戦法すら曖昧だ。
「…やるか?」
『やんない。まだやる?将棋。』
「……いや。俺も上がる…先上がってろ。アン、お前も先名前と上がってろ。」
首元を撫であんずのお尻をぽんぽんと叩くと渋々と泰宏の膝の上から降りて私の方へ来る。もう一度ちらりと泰宏の方を見て止まったあんずに良い子だと頭を撫でる。すると嬉しそうに尻尾をふり私よりも先に二階へと上がっていった。
私の飼っている愛犬の筈なのに、何故私より懐かれているんだろうと内心もんもんとしながら私も二階へと上がった。
「アン、伏せ、ターン。」
『………』
「アン、最後。バンッ!」
ピストルの構えでと声を聞きながらゴロンと倒れる愛犬。すごい。私が知らない間にまたしてもあんずの芸が増えている。偉いなと泰宏が誉めれば我が家の家族の誰に褒められるよりも嬉しそうに尻尾…いやお尻を振っている。そんな2人のやりとりをベットに横になりながら見守る。
『知らない間に芸が増えてる』
「あぁ、こいつは賢い。何でも覚えるしな。」
『………犬好き?』
「?…そうだな…好きだな。犬は忠誠心強いし、賢い。…ちゃんと誰が王かわかってるからな。」
『王…??』
そういえば、よく言う王とは一体何なのか。突然黙り込んでしまった彼の顔を愛犬と一緒に覗き込む。
『やす…わっ、ちょっ…!』
「お前も撫でて欲しいのか。よしよし」
名前を呼ぼうとすればわしゃわしゃと頭を撫で回されない。顔を見られないようにされた気がする。撫でられる手が止まった時に顔を見たもいつもと変わらない表情をしていた。
「名前。」
『ん?』
「………シェパードとか、ハスキー飼いてぇな。」
『??…うん?…いいんじゃない?大きい子も可愛いと思うよ。』
アンも可愛いぞとわしゃわしゃと撫でて貰えば嬉しそうに泰宏の手に体を撫で付けた。