「あんたって、本当にダメンズウォーカーよね」

そう、親しい友達に良く昔から言われる言葉があった。それもそのはずである。私と付き合う男はこの年齢となれば人並みにいるのだが、それが揃いも揃って巷でいうダメンズであったからだった。最初は頼りないけど優しい人も気づけば紐になり浮気をされたり、バンドマンの彼に十万単位の金を持ち逃げされたり、つい最近まで一年以上付き合っていた男とそろそろ結婚かなー、なんて思っていたらその男は既婚者でその奥さんと子供が私に慰謝料請求してきたり(既婚者ということは私も知らなかったので慰謝料は発生しなかった)と散々な目に合ってきた。
正直にいうと私は人と比べ何かしら危なそうな人間に惹かれてしまう傾向があるのは確かであった。
しかしそんな夢見る私も今年でアラサーと言われる年齢までになってしまった。流石に田舎の両親から結婚という言葉が良く出てくるようになり私自身もこの人とならと意識し始めた時には気づけば独り身になってしまった。
最初は上記の言葉を吐いた友達と居酒屋で酒を飲んでいたのだが、その友達は私とは違い既婚者なため早めに帰宅していった。その幸せそうな友達を見送り、自分の不甲斐なさにいじけた私は独りで行きつけのbarで、いつものフルーツカクテルを飲めば気持ちも少しは落ち着くだろうと思いbarの扉を開けた。


「…ん」
そこから、フルーツカクテルを飲んだ事までは覚えている。しかし私が朝日の眩しさに目を覚ました場所は見知らぬベッドの中で、更に言うと同じベッドに金髪のチャラそうな男の人と互いに裸体の状態で抱き付き合いながら寝ていたのだ。


「まっ!まっ!あぁあわ!!」

「…うるせぇなぁ」
壮絶な失恋の後で寂しかったのは認めるが私がこんなワンナイトラブをしてしまうだなんて!!と慌てふためき声を上げようにも何を言えばいいのか分からずに意味のない言葉を放っていると男がうっすらと目を開けたと思うと私の事を凝視、そして逃げられないように強く抱き締めてきた。あら!凄い胸筋だ事!なかなかいい体じゃない…そんな事考えてる場合じゃないわよ私!!


「ちょっ、ちょっと?!」

「…んだよ。こちとらやっと、」

「え?」

「うるせぇ」
そう言って男は更に私を黙らせるように強く抱き締めた。と最初は思っていたが私のダメンズレーダーがビンビンに反応している!こやつは危ないと!私もやはり友達の言うとおりダメンズウォーカーと言われる私は顔と体の悪くない目付きとドスの効いた声をした怪しい男に少なからずときめいているのは事実だった。しかし私とてもう同じ失敗は繰り返さない!人並みの幸せを獲得するべくここは自分を強く持ち、とりあえずはここまでの経緯を覚えていない事を謝罪をしようと私は声を上げた。


「すすすすすみません!私!あの!!してしまったのでしょうか?!!」
アラサーにもかかわらずこの素人丸出しの言葉に私は自分が情けなくなったが、相手の男に届いたようでぱっちりとこの度初めて目が合った。そしてその時彼の後ろに見えたゴミ箱には白い水風船が3つ…おぅふ、お盛んな事!!てかやっちまったなぁ!!!

「…お前、誰だよ」
こりゃこっちの台詞だよ!

「えぇ、あぁあのぉ」

「うるせぇ!ブス!」

「ブス?!」
肉体関係を築いたとはいえ初対面の異性にまさかの暴言!やはりこやつダメンズだわ友達!!私が唖然としていると男はむくっと起きて冷蔵庫の中にあったミネラルウォーターをイッキ飲みした所を見てここが男の自宅だと理解した。その後男は床に散らばる私の衣服と荷物をベッドの上に投げ、早く帰れブスと更に冷たく暴言を吐いた事にカチンと流石にきたため私は男に怒鳴った。裸のままでね。

「アンタ何様のつもり?!確かに昨日の事を覚えていないし、正直やけ酒だったけどここまで言われる筋合いないわよ!!」

「あ?テメェが酔い潰れてたから連れて帰ってやったんだよ!処女じゃねぇんだから体の一つや二つ貸してやってもバチは当たらねぇよ!てかブスの上、ガバガバで萎えたわ!」

「三ラウンドもしていて萎えたなんて良く言えたものね!それともただ早漏なだけかしら?」

「んだこの女っ!さっきの挙動不審な態度はどこにいきやがった!!」

「そりゃ朝起きて知らない男と寝てて記憶もなかったらそうなるわよ!」

「…そうかよ、なぁ」

「げ?!」
男が何か言いかけていたが、投げられた私物の中にある携帯が鞄の中でチカチカ光っているのを見付け恐る恐る時間を見ると8時。普通ならば普通に出勤している時間だった。そのため男の事には見るきもせず簡単に処理をして着替えてその場を後にすることにしたため男の方も早く出ていって欲しい様子で何も言わずにいた。流石に何も言わずに出ていくのはなんだったため歯磨きをしていた男に声をかけた。

「とりあえず家に泊めてくれた事だけは感謝するわ!さらば!」
ヒーローばりの退散加減で私は何か言いたげな男を放置して仕事場に向かうためタクシーを呼びその場を後にした。あの男いいマンションに住んでやがる事に些か苛立ちを感じ、きっと連絡先も交換していないし会うこともないだろう。

その時はそう思っていた。



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