.





私が愛したヒトは、絵本で見た夜空の様な色の瞳と、月の様な色の髪をした、美しい女だった。

外の世界を見た事があるらしい彼女から、色んな話を聞いた。外には天気があって、陽が照りつける日は暑く、雨が降る日は過ごしやすいとか、風が草木を揺らすのだとか。
彼女から教わったのは、外の世界の事だけではない。愛だとかいう、この世で最も信じていなかったものが、本当に存在するのだと、身をもって教えてくれた。

愛していた。

本当に愛していたのだ。

だけど私は、上手に愛する事が出来なかった。生まれや境遇のせいにするつもりはない。そんなものではなく、ただ私が、浅はかで馬鹿な女だっただけなのだ。

最後に彼女と会った時は、その綺麗な顔を碌に見る事も出来ず、私達の関係は終わった。
愛しているのだと伝えたかった。けれど、私からのそれは、きっと彼女にはもう、穢らわしいものになってしまったのだろうと思うと、言えなかった。
泣いて縋り付きたかった。けれどそれも、私にはその資格がない事など十二分に理解していたから、とてもじゃないけど出来なかった。
何も言えず、何も出来ないまま、ただ静かに、そこに蟠りだけを残して、私は彼女の元を離れた。



『………』



どうすれば良かったのだろうか。
彼女が護るものを私も守る為には、私には、ああする以外に思い付かなかった。他の選択肢など、知らなかった。今になって考えても、正しい答えは分からないままだ。

家の中が騒がしくなってきた事に気付くと同時に、漸くこの時が来たと安堵した。



『………』


「………儚様、」



顔の下半分を隠した女達が、ぞろぞろと目の前に現れた。目元しか見えないと言えど、誰が誰かはすぐに分かる。それ程に彼女達から護られて、私はこの街で生きていたのだから。



『……久しぶりね。』


「…ええ。」



つさ