SATに入隊しないかという話にイエスと答えたその夜、バイクを走らせてある場所に向かう。
柄にもなくどこかざわざわとしていた心が、夜風に当たると少し落ち着いた気がした。

着いたのはこの辺で1番大きな病院。面会時間はとうに終わっているけど、裏口から侵入して1室を目指す。



「……」



ベッドに横たわる女の子。傍の椅子に腰掛けて、綺麗な顔を見つめる。

彼女は儚。私の恋人。
1年前、ある事件に巻き込まれて以来昏睡状態。目を覚ます確率は限りなくゼロに近い。



「…儚、」



小さな手を握ると、少し低めの体温を感じて安心する。
あの日まで、私達は確かに幸せだった。何気ない日々を送って、それが続くと思っていた。



「私、SATに入る事にした。」


「今までよりもっと、危険な任務ばかりになる。」


「…勝手に決めた事、怒ってる?」



ただ1人でぽつりぽつりと話すだけ。返ってくるはずなんてないのに、こうしてるだけで酷く落ち着いて平常心を取り戻す事ができるなんて。
私の事を血も涙もない人間だと思っているであろうSITの人達がこんな私を見たら、きっと笑われるに違いない。

儚は私の仕事を応援してくれていた。立派だね、かっこいいね、凄いね。いつもそう言ってくれていた。
だけどそれと同じだけいつも心配そうで、沢山不安にさせてしまっていたと思う。
儚を安心させる為にも、強くなりたかった。絶対に大丈夫だと思ってもらえるくらいに。
そして決定的だったのは、儚を守れなかった事。
1番大切な人すら守れずに何が警察官だ、そう悔やんだ。あの日仕事に行かなければ、儚の傍に居れば、電話に出ていたら、こんな事にはならなかったのかと。
悔やんでも自分を責めても、儚が目を覚ます事はない。彼女が傷付いた事実も変わらない。



「だってまだ、まだ足りないんだよ。まだこんな私じゃ、きっと儚を守れない。」



違う。
話を聞いた時私は迷った。儚はなんて言うだろう、危ない事はしないでと泣いたかもしれない。そう思うと答えに詰まった。
そしてそれと同時に、今以上に厳しい訓練に集中していれば、儚の事を考える時間が少なくなるかもしれないと思った。

どんなに呼んでも返って来ない声に、もう2度と昔のように過ごせないのかもしれないという不安に、情けないくらいに押し潰されそうになる。
寂しくて、苦しくて、儚が恋しくて仕方がない。
当たり前のように出迎えてくれて、この華奢な身体を思いきり抱き締めて、何でもない話をして笑い合って。そんな些細な事でいい。それなのに。



「儚…っ」



いつの間にか頬を伝っていた涙を拭う気力すらない。彼女の前では、私は弱い。