ガタ、と人が崩れ落ちるような音で目が覚める。
ぼんやりとした意識の中ですら溜息を吐きそうになりながら重たい体を動かしてベッドから出て玄関に向かうと、案の定壁伝いに座り込んだ人影。



『…いつき、』



名前を呼んで、顔を覗くように目の前に座り込む。

この男、藤原樹と私の関係に名前を付けるのは難しい。幼馴染であり、身体の関係もあるけれど付き合ってはいない。つまるところそれは、側から言わせてみればいわゆるセフレと言ったところなのだろうか。
樹の仕事はホスト、確か源氏名はハルヒ。私の部屋に来る時は、だいたいこうして酔っ払っている。



『樹、ねえ、』


「…ユリ?」



まるで独り言を呟くように、本気で問いかけるように、ぽつりと零された名前。
そんなふうに確かめなくたって、あんたが来たんじゃない。なんて悪態は吐くだけ無駄な事はもう分かっている。



『リビング行こう?お水持ってってあげるから。』


「…ユリ、」



もう一度同じように名前を呼ばれた瞬間、長い腕の中に閉じ込められる。



「ただいま」


『うん、おかえり。』



お酒とタバコ、それから、いろんな香水が混ざった匂い。
今日も彼は外の世界で色んな人と会い、そして浴びるようにお酒を飲んできたのだろう。



「…LINE見た?」


『見てない、寝てた。なんだった?』


「…いや、なんでもない。」



そっと腕を解かれて、額に触れるだけのキスを落とされる。
ふらふらと立ち上がった樹を支えてソファーまで運ぶと派手な音を立てて倒れ込むように座った。

キッチンから持ってきたミネラルウォーターを渡すと、しんどそうにしながらもごくごくと飲んでいる。そんな彼を横目に寝室にスマホを取りに行って電源を付けると、数時間前に''会いたい'' ''今日行っていい?'' ''寝た?''などと幾つかメッセージが届いていた。

私が寝てることなんて大体想像がつくはずの時間にこんなメッセージを送ってきていたことから、その頃から割と飲んでいたのだろうと見当が付く。

リビングに戻ると、ソファーに上半身を倒して額にペットボトルを当てて目を閉じている樹。



『どこも行かなくていいの?』


「あー…うん、いや、分かんないけど」