『……いいから、私の事は。』
呆れたようにそう呟いた幼馴染の声が、どうしても寂しさを含んだように聞こえるのは、もうきっと俺の病気だ。
今回臣さんに調べろと言われた例の奴は、今までのターゲットの中でも群を抜いて慎重だった。
聞き込みをすれば話は山ほど出てくるのに、その実態はまるで分からない。写真だって横顔を撮るのが精一杯で、それすら3週間近く掛かってほんの一瞬だった。
実態が分からずとも、ロクに顔が分からずとも、臣さんがGOを出せば手を下す。それがこの幼馴染、ユリの仕事だ。
確かにユリが言うように、情報量がどうであれ臣さんが決定を下せたなら何の問題もない。臣さんが仕事をするに値するか判断できさえすれば、俺の仕事は成功だ。
だから俺が気にしているのは、臣さんの事じゃない。
『…どうせもう、変わんないんだから。』
自嘲げに笑うこいつに、人を殺させたくないんだ。
裏社会のこんな業界に身を置いていて何を言うんだと笑われるだろう。でも、それが本心なのだから仕方が無い。
俺もユリも、複雑な環境に生まれ育った。
そこから施設で過ごした後引き取られた場所からも逃げ出して再会した時、既にこいつはこの仕事をしていた。
無駄にユリの手を血で染めたくない。せめて殺すに値する奴かどうか俺が見極めたい、そう思った。
「…そんな事、ない」
『ふ、…本当、私に甘いよね。』
大きな瞳に薄ら膜を張っているユリは、俺を見て笑った。また、呆れたように。
ああ、俺は何をしてるんやろう。思い出させたかった訳やない。そんな顔させたくて為に来たんやないのに。
『私、ウイスキーロック。』
ひとつ息を吐いてソファーの背凭れに頭を付けたユリが、今度は悪戯っ子のように俺を見た。
だから今度は俺が呆れたように笑って見せて、再びキッチンに向かった。