そっとパソコンを閉じて、広げた資料やノートを纏める。



「橘さん、ご結婚されてるんですね?」


『ああ…ええ。』


「すっごい指輪。大事にされてるんですね。」


『ふ、ありがとうございます。』





建物を出ると、今にも雨が降り出しそうな空。
タクシーを停めて乗り込んで、なんとなく指輪に目を向ける。

きっと年相応ではないそれは、確かに女の子ならば誰もが憧れるものなのかもしれない。
だけど、私はこれと引き換えにどれだけのものを失ったのだろう。
もう、失うものなんてないと思っていた。これ以上落ちることなんてない、これ以上落ちたくない。そんな気持ちで、あの頃の私はあの場所から逃げ出すことばかり考えて、後先のことなんて頭になかった。

留まっても進んでも、私には地獄しかないなんて。



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