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あの日から3か月。
あの店に行こうとするだけで心臓がぎゅっと苦しくなって、だけどあの人に会いたくて、それまでより高い頻度で店に通っていた。
とはいえ、これだけ通っているのだからきっと向こうも良く来る客だとは思っているだろうけど、街柄か向こうから話し掛けられることもなく、ただコーヒーを注文してたまに店内で過ごしながら密かにあの人を眺めるだけで。
彼女が居た事はあるけど、どうしてもそれよりダンスや歌に没頭してきた人生だった。特に自分から好きになって告白してみたいなちゃんとした段階を踏んだ事があるかと言われると、答えはノーだし。
おかげで、考えると他の事に身が入らない程焦がれる相手なのにどうアプローチをしたら良いのかすら分からず、悪戯に時間だけが過ぎて。
レッスン開始まではまだ時間があるけど、今日も今日とて店に来て、ただ、いつもと違ったのは、準備中と書かれたプレートが扉に掛かっている事だった。
スマホで時間を確認すると10時45分。開店は11時と書かれている。
いつも昼以降しか来た事が無かったから、この店の開店時間すら初めて知った。
もう少し辺りを歩いて時間を潰してから出直すかと踵を返そうとした時、奥の客席に人影が見えた。
小さなシルエットは間違いなくあの人で、ぼんやりと手元を見ているようだった。
思わずその姿に見惚れていると、視線に気付いたのか顔を上げてこちらを見た彼女。
びっくりして逃げ出しそうになってしまったけど、その方が気持ち悪いかと思い直してぺこりと頭を下げた俺に同じように返した。
『ごめんなさい、どうぞ?』
「いやこちらこそ、あの、まだ開店時間前なんじゃ…?」
『ふふ、どうせもう少しなので。』
柔らかく笑った彼女に申し訳なく思いつつ、初めて会話が出来た事に胸を躍らせながら、カウンターに入った彼女に続いて店内に入る。
『アメリカーノで良いですか?』
「え?」
『あ…ごめんなさい。いつもアイスのアメリカーノだから。』
少し気まずそうに、照れるように笑った彼女。
やっぱり俺の事分かってくれてたんだと嬉しくて仕方なくて、緩む頬を抑えられない。
「はい、今日もそれでお願いします。」
そう言うと顔を綻ばせた彼女を、本当に好きだと思った。
『どうぞ』
「ありがとうございます。」
『あの…』
コーヒーを運んで来てくれた彼女は、トレーを下げてもまだそこに立ったままで。
不思議に思って見上げて首を傾げる。
『お腹、空いてませんか?』
「え?あぁ、はい。」
起きてから何も食べていない事を伝えると、ぱっと笑った彼女は、ちょっと待ってて下さいと声を弾ませた。
可愛いな。あんな風に無邪気に笑うんだ。
穏やかに微笑む姿しか見た事がなかったから、知らなかった表情をひとつ知れた事が幸せで。
『これ、試作品なんですけど、良かったら。』
そう言って置かれた皿の上には美味しそうなサンドイッチ。
「良いんですか?」
『はい。』
感激して写真でも撮りたい気持ちを抑えて手を合わせる。
「いただきます」