頭を撫でられる感覚に目を覚ますと、優しい瞳がそこにあった。
「ごめん、起こした?」
『ううん。』
布団から出ていた左手にシャーロックの右手が絡まる。
少し低めの体温に安心して、またすぐにでも眠りにつきそうだ。
「ねえ儚?」
『ん?』
「恐怖を消す薬があったら、貴女は欲しい?」
ぽつりと呟かれた言葉に、少し真剣に考えてみる。
そんな物が本当にこの世に存在したのなら、喉から手が出る程欲しかっただろう。
代償として幸せや喜びの感情を無くすことになったとしても、恐怖に勝るものはないと思っていたから。
だけどそれは、シャーロックと出逢う前の私なら、だ。
『…私、もう持ってる。』
「え?」
目を丸くしたシャーロックの首に腕を回して唇を重ねる。
幸せも喜びも、愛さえ、恐怖や絶望には敵わないと思っていた。
でも今は、それと共に生きながらでも、手離したくない人が居る。
『ね?』
「…ふ、そうね。」
唇を離して見つめると、シャーロックは得意げに口角を上げた。
それはまるで彼女自身も、私にとってそうである事を認めてくれているようで。
今度はシャーロックから重ねられた唇を受け入れれば、私達はまたひととき、世間の喧騒から姿を消す。