どれだけ拒もうが逃げようが、解放される事はない。
どうせ私の人生は生まれた時から負の感情に塗れていて、人並みの幸せすら感じる事はないまま終わっていく。
夢も希望も、抱き方さえ知らない。
ただそこに身体があるだけで、存在していないような感覚。
暗くて、冷たい記憶。自分でも、他の誰でも、どうする事も出来ない闇。
「…な、儚!」
『っ!』
飛び起きると、吐き気がするほどの目眩と頭痛に身体がふらついた。
咄嗟に肩を支えられた手は、私を傷付けない。ちゃんと分かってる。
『ごめん…大丈夫…』
「……」
ゆっくりとその手を離して、目を閉じて呼吸を整える。
「…儚、」
『ん、大丈夫だから…っ…シャー、ロック…』
ぎゅっと抱き締められた身体。
思わず少し強張って、でも、こんなに優しく抱き締められた事なんてなくて、どうしたらいいのか分からない。
「…私は、貴女が怖がる事なんてしない。」
『……』
シャーロックの手を取った時に言われた言葉。
口だけではなんとでも言えると分かっているのに、どうしてか心にストンと落ちてきたそれは、彼女と私を引き寄せた。
「儚が望むなら、ただ黙って抱き締める。何もせずに隣で眠る。貴女が望むなら、貴女を雁字搦めにするそいつらを殺してあげる。」
『……』
少しずつ身体から力が抜けて、ただシャーロックに委ねる。
耳元で囁かれる落ち着いた声は、昔好きだったオルゴールのように心地良い。
その言葉は全てシャーロックらしくなくて、それなのに本当だと思えた。
私も随分彼女に絆されたなと自覚すれば、長い間霧がかっていた頭がスッキリしていくようで。
「何もしない。そして何だってしてあげる。だから、…っ」
背中に腕を回すと、今度はシャーロックが身体を強張らせた。
『…抱き締めて、隣で眠って。キスして、触れて、全部教えて。』
「儚…」
『貴女は私を解放して、貴女の物にしてくれる術を知ってる。違う?』
少し身体を離してシャーロックを見つめると、その瞳には色んな感情が見えた。
やっぱり彼女らしくない、どこか自信なさげで、縋るようで、だけど確かに熱を込めている。
「…あげるわ、全部。だから儚の全部も私の物。今もこれからも、そして過去も。」
丁寧に傷を縫うような、深く抉るようなシャーロックの愛は、私を甘く壊していった。