ねえビョリ、初めからこうするつもりだったなんて知れば、ビョリはきっと、凄く怒るよね。
でもね、どうしても嫌だった。
貴女以外の人と生きていくなんて、私には出来ない。
どうにもなれなくたっていいから、ただ一緒に居たかった。だけど、もうこの気持ちを押し殺しておけなくなったの。
全部全部、ビョリが良かった。そう思ってしまった。ビョリと居る時間に閉じ籠っていたかった。このまま時が止まればいい、何度そう願ったか分からない。
だけど、ビョリの事まで閉じ込めておく訳にはいかないって分かってた。貴女には、貴女の未来があるから。
それでも、最後まで貴女を求めた私を、どうか許してください。
ビョリ、どうしたって貴女を愛してしまって、ごめんね。
何より大切な貴女が幸せになれるように、心から願っています。
手紙を握り締めると小さな音がして、自分の心が壊れる音のようだった。
目の前で横たわる儚は眠っているかのように穏やかな顔をしている。数時間前、私の隣で目を瞑っていた時のような。
「儚…」
儚が大量に薬を飲んで風呂場で手首を切って病院に運ばれた
そう連絡が来たのは、起きてから直ぐの事だった。
まだほのかに感じる儚の香りや、確かに残っている儚に触れた感触。そういうもの全部が痛いほど愛しくて、もう2度と一緒には過ごせない現実に打ち拉がれていた。
病院に着くと、儚は息を引き取っていた。
そして儚の母親から渡されたのは、私宛ての白い封筒。
「…儚、」
ベッドの側に膝をついて、そっと頬に触れる。
さっきまで暖かかったはずのそれは冷たくて、信じられなくて、ただ儚の顔を見つめる。
こんな事になるなら、無理矢理にでも儚の手を離さなければ良かったのか。
私は何処かで思っていた。時間が経って慣れれば、互いに前に進めると。
結婚して、子供を産んで、どんなに愛していても私にはあげられない普通の幸せを感じて、それが正解だと思ってくれる日がくるはずだと。
だけど、こんな日にどうして、大事な時なのに、どう説明すればいいんだ、そんな言葉が飛び交うこの場所で、初めて儚の置かれていた環境を知った。
儚がこんな事になってまで尚、世間体を気にしている儚の両親。迷惑に巻き込まれたと嘆く儚の婚約者。
儚、君はずっとこんな世界にたった1人で向き合ってきたの?
儚から聞いていただけでは分からなかった、あまりに冷たすぎる世界。
ビョリと居る時だけが、楽しくて、幸せなの。
儚はいつの日か、そう言って笑っていた。
「儚、ごめん…」
きっといつもギリギリの所で耐えて生きてきた儚を、そこから突き落としたのは私だ。
せめて私が傍に居れば、こんな事にはならなかったのかもしれないのに。
頬に手を添えて冷たい唇にキスをすると、さっきまで騒がしかった病室が静まり返った。
そう。アンタ達はきっと何も知らない。
自分の娘なのに、自分の婚約者なのに、儚の事を何ひとつ知らない。
分かってやれたのは、私だけだったのに。
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