ふと目を覚まして隣を見ると、抱き込んで寝たはずの儚は、私に背を向けて窓の外を見つめていた。
「儚、」
『ん、ビョリ』
後ろから抱き締めて、伝わってきた低めの体温に安心する。
そして、不意に目に入った細い手首の傷に心が痛んだ。
「…眠れなかった?」
『ううん、大丈夫だよ。』
初めて身体を重ねた後、一緒にお風呂に浸かった時だった。
その傷から思わず目が離せなくなった私に気が付いた儚の自嘲気に笑った表情に、胸が締め付けられた。
私達は、一晩限りの相手を探すように出会った。儚が自分の身に起こった事を話してくれたのは、だからこそだろう。
『ねえビョリ、』
「ん?」
『…夢を持って、それを叶えていくって、どういう気分?』
儚の顔は見えない。でも、きっと冷たい瞳をしているんだろうと思った。
生きていられないような思いをしながら、それでも生きていてくれた。そして私と出逢ってくれた。それがどんなに嬉しくて愛しい事か、どうしたら儚に伝わるだろう。
「そうだね…。怖い時もあるよ。少しでも気を抜くと自分を見失いそうで、その隙に足をすくわれそうで、気が気じゃない。」
もう、綺麗なものしか見てほしくない。もう、幸せな思いしかしてほしくない。
だから私の全てを懸けて、儚を幸せにすると誓った。目下、その思いは儚に伝えた事はないけれど。
「…でも、凄く幸せで、満ち足りた気分になる。それと同じだけ重たく感じて焦る事もあるけど、それが私の選んだ道だから。」
『…そっか。』
透き通った静かな声は聴き心地が良くて、ストンと心に落ちてくる。
儚くて危うげで脆い、そんな独特な雰囲気。
「」
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