暗証番号を入力してドアを開いた瞬間、響き渡る大きな音。
慌ててスニーカーを脱ぎ捨ててリビングに走る。



「ユリ!!」



電気の点いていない薄暗い部屋は物が散乱していて、割れたガラスの破片があちこちに散らばっている。
俺の声に振り返ったかと思うとその場にぺたんと座り込んだユリに駆け寄って、華奢な肩を抱き寄せる。



「ユリ、」


『……て、さな…』



俺のシャツの胸元を弱々しく握った手を上から包み込むと、堰を切ったように泣き出したユリ。
抱き締めた腕に力を込めて、腕の中の存在に安心して目を閉じる。





「怪我してない?」



少し落ち着いたユリの顔を覗き込むと、朧げな瞳は俺を映しているのかいないのか。
握っていた手を見ると所々切れて血が出ていて、綺麗な脚にも切り傷がある。



「おいで、」



ゆっくりと瞬きを繰り返しながらされるがままのユリを抱え上げて、救急箱を片手に寝室に入ってベッドに腰掛けさせて、その下に座る。

掌や腕、脚の傷を消毒して、血が止まらない箇所にだけガーゼや絆創膏を貼っていると、ユリが徐に俺の膝の上に座ってきた。



「チャギヤ、まだ終わってな、」



咎めようとした俺に深く口付けてきたユリからは、泣いている気配と、彼女の頬から俺の頬に涙が伝う感覚がする。



「ユリ、」


『テサナ、テサナ…っ』


「ん、此処に居るよ。もう大丈夫だから。」


『、やだ、っ…も、やなの…』


「ユリ……」


『っ…あたま、変になりそう、ずっと触られるの、ずっと、声も聞こえて、たすけて、てさな、たすけて…っ』



震えが止まらない小さな体を加減も考えずに強く抱き竦める。ほんの少し触れ方を間違えたら壊してしまいそうで、だけど、いっそ壊れてしまった方が、ユリはラクなのかな、なんて考えが過る。
消せない過去、消せない感触、出口のない闇の中で、彼女が1人でもがき続けている事が悔しくて、傷くて。
あいつを殺したところで、ユリの傷が癒える訳ではない事は分かってた。それでもこうして目の当たりにすると、心臓を抉られるような痛みに襲われる。



「ユリ、」


『ふ、っ…てさ、てさな、…』


「ん、ユリ、」



息が出来ないくらいキスをして、抱え上げたユリをベッドに押し倒す。雑に服を全部剥ぎ取って、食べ尽くすように全身にキスを落とす。手を強く握って、たくさん、名前を呼びながら。

俺は全くもって器用じゃないから、上手に傷口を縫う事とか、瘡蓋になってやることは、きっと出来なくて。より深く抉って、その傷ごと俺の記憶にすることくらいしか思い付かない。
こんなやり方は正解じゃない。もっと優しく、ただただ優しく触れたいのに。

あの頃も、今も、俺がバカなせいで、本当にごめん。だけど、全部全部責任取るから。おまえが壊れたって傍に居るって約束するから。
俺が居るって、俺が触れてるんだ、って、ちゃんと感じてほしい。おまえを守るのは、そして、傷付けるのだって、もう俺だけだよ。この世界にはもう、俺以外に居ないんだって、思って、感じて。



『うぅ…っ、ふ、ぅ…』



細い鎖骨、小さな肩、柔らかい膨らみ、浮き出た肋骨、ひとつひとつを指でなぞって、舌を這わせて、食むようにして痕を残す。
いつもよりずっと小さな声は喘いでいるというよりは呻きに近いようにも聞こえて、また苦しくなる。
それは普段彼女が甘い反応を示す弱い部分に触れても変わらなかった。
どんなに指で、舌で愛撫しても、全くと言っていい程濡れないそこに、戯言のように俺の名前を呼んでいる彼女に今見えているのは俺じゃないんだろうなと胸が苦しくなる。



『てさな、』


「うん?」


『テサニが、いい…』


「…多分、痛いと思うけど、」


『いいよ、テサナになら、いいから…っ』、



また顔を歪めたユリを宥めるように、小さな顔を両手で包んで啄むようにキスを繰り返す。



「俺は大丈夫だから、我慢出来なくなったら言うんだよ?」


『ん、っわかった、』


「ん、いい子。」



少しでも安心させたくて、強く抱き込んで頭を撫でながら進めていくと、申し訳程度に濡れているくらいで全然入っていかない。ユリの顔を見ると痛そうに顔を顰めていて、心臓に冷たい水を浴びせられたような気になる。
それでも、俺に縋り付く力とか、俺の名前を呼ぶ声に、多分、考えてる事は一緒なんだろうなって。

ユリに辛い思いも痛い思いも絶対にさせたくなかった。俺だけは、絶対に傷付けたくなかった。だけど、それを彼女が必要としているなら、俺はただ、応えるだけだ。



「ごめ、っユリ…」


『ふ、っぅ…てさ、てさな…うぅ、てさ…っ』



こんな状況なのに頭は興奮して身体は反応しているのが気持ち悪い。結局俺もユリを傷付ける側の人間なのかと思うと死んでしまいたくなる。

力加減を間違えたら壊れてバラバラになってしまいそうな、こどもみたいなユリの身体を、汚い欲の塊で真っ二つに裂いているような、そんな感覚。



「ごめ、ごめん…っ、」


『』