ショップを出て、スマホを確認して溜め息を噛み殺す。

あの日を最後にビョリから連絡が来なくなった。
元々他愛もない話はしない。ビョリに誘われて、私がそれに返事をするだけだった。
それでも良かった、なんて、馬鹿な女だ。

あれから3ヶ月近く。ビョリと出逢ってからこんなに会わない事は初めてで、妙な胸騒ぎがする。
それを誤魔化すように買い物に来たのに、大好きなレッドソールもビョリには敵わなくて。
ぽつぽつとだらしなく歩いて、ふと向こう側の道路に目を向ける。



『っ……』



深くキャップを被ってマスクをしているけれど、間違いなくビョリだ。そしてビョリが手を引く人があの人だという事もすぐに分かった。

私の前では決して見せない、眩しい笑顔で笑って、手を繋いで。


ああ、上手くいったんだ。直感でそう思った。


言葉にはしないけれど、あの人の事を考えている苦しそうな寂しげな表情をいつも見てきた。
似ても似つかない私にあの人を重ねて、行為中は名前すら呼んでくれなくて。

ビョリも辛いのは分かっていた。だから何も言えなかった。きっと私と同じ思いだと思ったから。
ビョリが幸せそうで嬉しい。それは嘘じゃないのに、どうして涙が零れるんだろう。



いつか前触れもなく終わる関係だという事も覚悟していたはずなのに。

嘘だったかもしれない。感情なんてひとつも篭っていなかったかもしれない。それでも、触れて欲しかった。声を聞いていたかった。
好きじゃなくてもいいから、求めて欲しかった。

もう、本当に全部全部、あの人のものになってしまったんだ。





どうやって帰ってきたか覚えていない。
気が付いたら電気も付けず玄関に座り込んでいて、横たわったベージュの紙袋からは同じ色の箱が飛び出していた。

私が何を着ていたって何を履いていたって、どんなメイクをしていたって、そんなもの見ていない事は知っていた。
それでも少しでも可愛いと思って欲しくて、またビョリに会えるのが楽しみで、そればかり考えていた。

それが本当に無意味になってしまった今、どんなに綺麗な物を持っていたって仕方がない。

私がこんなに泣いていたって、ビョリは私の事なんて頭の片隅にもないくらい幸せなんだろう。
いつまでも辛い思いはしたくなかった。でも終わりたくなかった。いつまででも一緒に過ごしたかった。





(二度と貴女から連絡が来る事も、触れられる事もない。)

(苦しみの終わりは、幸せの終わりだと知った。)