『…久しぶり、っちょ…、』



出迎えてくれたビョリに強い力で腕を引かれて、閉まった玄関のドアに身体を押し付けられる。

すぐに首元に顔を埋めた彼女の表情は見えなくて、せっかく会えたのに寂しい。でも、その温もりが愛しくて。



『ビョリ…っ、待って…』



ジャケットを脱がされたと思えばやっと私を見たその目は、熱を灯して少し潤んでいる。
そのまま何も話さずまた腕を引かれて、寝室のベッドに組み敷かれる。

低めの体温、優しいムスクの香り、綺麗な長い髪の毛に、私の名前を呼ばない彼女。

全部全部懐かしくて、愛しくて、そして、壊れてしまいそうな程苦しい。



「……儚?」



涙を流す私に気が付いたビョリが、ワンピースのジッパーを下ろそうとした手を止めて顔を覗き込んでくる。

嫌なわけじゃないのに。こんなに好きで、ずっとずっと会いたかったのに。

いつから私は、欲張りになってしまったのだろう。



『ごめ…っ』



涙を止める事が出来なくて、顔を逸らして起き上がる。
戸惑った視線を感じて、また苦しくなる。



『ビョリ、』



もうビョリにとっての良い子では居られなくなる程、私は彼女が好きなんだ。
そう思えば、涙も、言葉も、止める事が出来なかった。



『…私ね、ずっと、ずっと…ビョリの事が好きだった。』


「っ…」



驚いたように目を見開くビョリ。そっか、気付いてなかったんだ。
私を見ていなかったんだから、当然か。



『ビョリから連絡が来なくなってもずっと忘れられなくて、誰と何しても、ビョリに会いたくて…。好きだから、どんな関係だって良かったの。ビョリが私を好きじゃなくても、一緒に過ごせるだけで幸せだった。
だから今日こうして会えたのも、嬉しいのに…なのにね…』



それで良いと、求めてはいけないと言い聞かせてきた。
だけどずっと、私を見て欲しかった。私が隣を歩きたかった。



『私やっぱり、ビョリが好きだから、もう、他の人の代わりにはなりたくないよ…』


「…儚……」


『だからごめん、もう、ビョリには会えない…』



そう言って立ち上がろうとした瞬間、温もりに包まれる。



『っ…ビョ、リ…?』



ああ、これが最後だから。だからこんなに優しいの?
抱き締めてくれた事なんてなかった癖に。最後まで好きにさせて、ズルイよ。

きっともうこんなに人を愛する事はない。最初で最後の、愛しい温もり。



「…ごめん。」



耳元で聞こえる低い声は優しくて、少し震えていた。



「そんなに苦しい思いさせて、ごめんね。」



首を振ると、そっと頭を撫でてくれる。
どうして、こんなに好きなんだろう。好きになんて、ならなければ良かった。



「…私も、儚が好きだったよ。」


『…え……?』


「確かに、最初は違った。でもどんどん儚の事が気になって、いつの間にか好きになってた。でもね、あの子から告白されて、ずっと好きだったから、この子と生きていくのが正解なんだろうって思ったんだけど…。何してても儚が浮かんで、全然、上手くいかなくてさ。」


『……』


「もうずっと前に終わってるんだ。今は本当にただのメンバー。儚に会いたかったけど、自信がなくて。私より魅力的な人も、ちゃんと儚だけを大事にしてくれる人も、儚には現れるだろうって。でもやっぱり諦められなくて、連絡したの。
なのにいざ会ったらどうしていいか分からなくて、いきなりこんな事して、傷付けてばっかりだね、ごめん。」