玄関のドアを開けて私を見たビョリは何だか弱々しくて、彼女らしくなかった。
黙ったまま部屋の中に行こうとした彼女の腕を強く引いて、壁に押し付ける。



『ねえビョリ、聞いた?』


「……」


『私、明日結婚するよ。』



どうして目を合わせてくれないの。どうしてそんなに泣きそうなの。

全部全部、貴女が望んだ事でしょう?

私はずっとビョリの事が好きだった。そして彼女も同じように、私を想ってくれていた。
それでも、彼女は私の気持ちにも自分の気持ちにも気付かないフリをし続けた。
我慢出来なくなった私が彼女に想いを告げたのは2ヶ月前。
彼女は、私を拒否した。
私の家は所謂財閥で、私はその跡取り。財閥の娘が、結婚しないつもりどころか同性愛者だなんて、世間からどんな目で見られるか分かってるのか、そう言った。自分を巻き込まずにちゃんと真っ直ぐに道を生きろ、そう言った。

涙も出なかった。私達が愛し合うのは間違っている。愛する人からそれを言われてしまえば、もう何も考えられなくなった。
それからビョリとは連絡も取らず、はぐらかし続けてきた縁談の話を受けた。



『デートもしたし、セックスだってした。』


「っ…」


『全部上手くやったの。パパもママも喜んでた。』



とうとう唇を噛んで俯いたビョリに、ゆっくりと顔を近づける。



『これで誰も私の事、私達のこと、疑ったりしない。だから、』



最後くらい、いいでしょ?

最後まで言ったのが先だったか、ビョリが私の唇に噛み付いたのが先だったか。