今出た。儚は?

そのメッセージにもう着きますと返した所で、目的地のホテルが見えた。


ロビーの椅子に座っていると、少し早歩きのヒールの音に顔を上げる。



「待たせたわね。」


『大丈夫です。』



首を振って立ち上がって、一緒にエレベーターに乗り込む。





部屋に入るなり、近くのテーブルにバッグを置いて私を壁に押し付けた主任。
深い赤色のオータクロアは憎たらしい程彼女に似合っている。



『主任…っん…』


「…今は違う。」


『…玲子、さん』



ゆっくりと視線を交えて、どちらからともなく唇を重ねる。
私の手からサフィアーノと着替えの入った紙袋を取って、後ろ手に自分のバッグの隣に置く。

性急さを感じさせる手付きでスーツのジャケットを脱がされて、ブラウスのボタンを外される。
唇を離して首筋を伝う舌に、華奢な肩を押す。



『ちょ、玲子さ…っ』


「ん、嫌?」


『シャワー…』


「今が良いの。」



強く腕を引かれてベッドに倒される。私の上に跨った玲子さんは雑にジャケットを脱ぎ捨てる。
手首を押さえ付けられてまた唇が重なって、もう片方の手で最後までボタンを外された。
キャミソールの裾から入ってきた手に自然と背中を浮かせると、あっという間にブラジャーのホックを解かれて胸を揉まれる。



『ん、…っあ、ぁ…』


「…痕、付けても良い?」



その言葉に頷くと、抱き起こして上半身に纏っていたもの達を脱がされる。
そしてまた押し倒されて、胸元にピリッとした痛みが襲う。心地良いそれに目を閉じている間にズボンを脱がされたと思うと、乳首に感じる柔らかい温かさ。



『あっ…んん、あぁ…』



片方は舌で、片方は指で弄ばれて、一気に熱に浮かされる感覚に玲子さんのシャツを握る。
口角を上げた玲子さんは意地悪だ。余裕が無くなっていく私を見ては楽しそうに笑って、どんどん乱していく。


玲子さんと初めて身体を重ねた時、初めて感じる快感や込み上げる感情に頭も心も支配された事を思い出した。

高校1年生の冬、目の前で家族が殺された。次は自分だと怯える私を嘲笑った男は、貪る様に私を犯した。
幸か不幸かそれが時間稼ぎになって、殺される前に警察が到着した。
犯人は留置所の中で自殺。罪を償わせる事も、家族の仇を取る事も叶わなかった。

あれからずっと、生きている意味が分からなかった。
目の前で絶望の表情をしながら悲鳴を上げて殺されていく家族、身体を代償に助かった自分の命。
新しい両親に引き取られた後も、両親や周りの人に心を開く事は無かった。
そんな私が唯一自分からやりたいと望んだ事、それが刑事になる事だった。

別に犯罪者を憎んでいる訳でも誰かを助けたい訳でも無かった。だけど、まるで引き寄せられる様にこの道しか考えられなかった。
両親は難しい顔をしただけで私を止めはしなかった。最も、心から納得や応援をしているんじゃなく、早いところ結婚させて仕事を辞めさせようという魂胆だ。
毎月の様にお見合いを取り付けてくるのが鬱陶しくて、仕事だと嘘を付いて帰らない日が多くなった。